Cobolerの実験場

書きたくなった文章を置きに来る場所

90年代のオタクが推奨したアクション映画を見る

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つい描いてしまったファンアート

爆走!アクション・ムービー・ジャンキーズ

爆発!炎上!崩壊!沈黙!

今、アクション映画が途方もなく熱い!

男の夢想が結実した新世代デカ・バジェ・ムービーの魅力と魔力を徹底解説!

 予算=バジェットがデカい。つまり超大作のことを、この本の中ではデカ・バジェ・ムービーと呼ぶ。

 洋泉社映画秘宝ムックがあったりしないかな~と思って古本屋に行ったところ、こんな本をゲットすることができた。『爆走!!アクション・ムービー・ジャンキーズ '90sアクション映画観戦ガイド』!(以下、略してBAMJと表記する)なんせ、発行されたのが1998年の5月。むしろ、映画秘宝ムックよりもこっちの方がお宝ではないか。いや、そうだ。

 この胡散臭くて暑苦しい表紙をご覧いただきたい。ほんとに90年代か?それ以前の雰囲気しか感じないんじゃが…と少し迷ったが、やはり買わないわけにはいかなかった。90年代のアクション映画を観戦!である。気にならないわけがない。書いている人たちも、映画秘宝で見かける名前がちらほらいるし、多分おもろいやつだ。

 しかし、それだけが魅力ではない。古い本ならではの楽しみ方があるではないか。目次を見ながら内容に納得しながら買って帰ったわけだが、目次を見るまでに私はこんな期待をしていたわけである。

  1. 90年代にメチャクチャ活躍したけど、最近全然名前を聞かない映画人の話が載っているのではないか?
  2. 90年代末時点の未来予測は、2021年時点でどの程度当たっているか?
  3. 最近すっかり落ちぶれた感じのアクションスターの、全盛期の熱いレビューが見られるのではないか?
  4. 90年代の映画オタクが熱い視線を注ぐ未知の作品が掲載されているのではないか?

 書き出してみたらこうなる。似たような感じの項目が並んでいるが、私の期待は主に④の未知の作品にあった。

 前回の記事では、ほかの記事のランキングをざっくり紹介するにとどめたが、今回の記事はどう書けばいいか迷った。とりあえずBAMJの中で章タイトルになっている作品を中心に、あとは私にとって興奮度高かった90年代の映画を入れて10本くらい紹介していきたいと思う。幸いにもこの本で大きく取り上げられた作品は、ド定番というよりは未知の作品が多かったので、当時のマニアの好みが垣間見られて良かった。いやこの本自体にはシュワちゃんとかジャッキーとかスタローンみたいな超王道アクションスターの記事ももちろん掲載されているのだが、やっぱ未知の作品に興味が集中してしまったため、けっこう偏った記事にはなってしまったんだけど…。

 なおこの記事の各映画の章タイトルは、BAMJの章タイトルやアオリ文から作成した。

私にとって興奮度高かったセガール映画

 最初は「私にとって興奮度高かった映画」としていたんだけど、紹介する作品がセガール出演作ばっかりになってしまったので、もうセガール映画のセクションにした。

 あらゆる意味で偏差値の低い映画ファンを魅了しまくったセガール。「強い男」から「いささか強すぎて無敵の男」へと進化した先には一体何が待ち受けているというのでしょうか?(20ページ)

 スティーヴン・セガールの記事はBAMJの最初に掲載されている。セガールが1998年の界隈で最も重要なアクションスターだったんだと、とてもよく分かる。まさに③である。申し訳ないけど③としか言いようがない。

 セガールTRPG*1のセッションに参加させて頂いた際に参加者の方々と意見が一致したのは、セガール映画は90年代までの作品だけ見ておけばOKという話だ。90年代以降の作品はクオリティが微妙で、アクションシーンは減るしそもそもセガールがあまり出てこなかったりする。なので、90年代までの作品で十分。ただしセガールが珍しく敵キャラで出てくるロバート・ロドリゲス監督の『マチェーテ』(2010)はメッチャおもろいので例外!という感じである。

 セガール映画とは、セガールが主演する、セガールがやたらめったら強い映画を定義する言葉である。BAMJはセガール映画の主人公像を一言で「能ある鷹は爪を隠す。が、一旦爪を出したら全てを破壊し尽くすまで再び隠さない」と表現した。

セガールって誰にも頼りませんからね。普通は誰かに頼りますよ、どんなアクション映画でも。それにどんなに強い奴でも敵に捕まったりしますよ。ちょっとミスったりします。拷問とかされちゃったりします。女の誘惑とかに負けてやっぱり捕まったりしますよ。でも、しませんね、セガールは!いつも天下無敵で悪を蹴散らし続けてます。1回も敵に捕まってませんね。初期の作品では1回だけ捕まったことありましたけど(91ページ)

 この1回だけ敵に捕まるってのは、デビュー作にして初主演作である『刑事ニコ 法の死角』(1989)のことだろう。敵に捕まったあと、敵の能書きを全部聞いたあとで自らの怪力によって拘束をバリッッと破り、華麗に脱出するという無敵っぷりがあまりにも衝撃的だったのでよく覚えている。どんなアクションスターにも、下積み時代にチョイ役で出演した作品くらいあるだろう。しかし、セガールは映画初出演の俳優初挑戦にして、こんな映画に出てシャロン・ストーンと共演しているのだ。この時点で、もう尋常ではない男なのである。

 そんなセガールについて、アツい解説つきでおすすめ作品を厳選してくれたBAMJ。私にとってもきっと面白いに違いない!と確信して未見の作品をエイヤッと見てみた。

獣気全開!!『沈黙の要塞』(1994)

 巨大石油会社の消火技師フォレスト(セガール)は、会社とイヌイット族との、採掘を巡る争いに巻き込まれ重傷を負う。イヌイットの女性マースー(チェン)に助けられた彼は、巨大石油採掘プラットホームを舞台に、地球環境お構いなしの冷徹な社長(ケイン)に戦いを挑んでいく。(ツタヤディスカスより引用)

 で、最初に見たのが『沈黙の要塞』である。沈黙シリーズは『沈黙の戦艦』(1992)の次に何を見たらいいのかわからない初心者だったので、BAMJに掲載されていた壮絶なあらすじを読んだのがきっかけで今回初めて鑑賞した。そして自らが製作・監督・主演したこの超入魂作で、セガールのすごさが極限に達していることを知った。この作品はだいたいどのサービスでも見ることができるし、BSならテレビ放送も期待できそうだ。

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 まずあらすじに書かれている、石油会社とイヌイットの争いに巻き込まれて重症を負う場面。ここまでは普通のセガール映画だった。しかし、犬ぞりに乗ったイヌイットの長老の前にシロクマの幻が現れたことで雰囲気が変わってくる。長老がシロクマの幻が現れたほうに行ってみると、そこにはセガールが倒れているではないか!シロクマの幻はセガールの、なんか霊的なパワーが吹雪の中に具現化した現象だったのだ。

 この作品は他のセガール映画と違い、何やらセガールの強さに霊的な裏付けがされている演出があり、それが異様な雰囲気を醸し出していた。長老に怪しげな薬を飲まされて幻覚を見るシーンでは、グリズリーと戦うセガールを見ることができる。ひょっとしてギャグでやってるのか?と思ってしまう場面だが、セガールの場合は本当にギャグでやっている可能性もあり、衝撃だけ受けておくことにした。ヤツにはギャグセンスがある、とBAMJにも書いてある。

 セガールのすごさはさらに続く。実はアラスカ山中に国1個破壊できるほどのイエローケーキを保有していることが分かり、石油会社からテロリストと呼ばれることになるセガール。やっていることが実際テロリストなので仕方がない。石油会社が雇った傭兵たちはセガールの経歴を聞くと、「北極で身ぐるみはいで海に投げ込んでも、次の日にはメキシコ湾からニッコリ笑いながら出てくるようなヤツなんだぞ!」などと言いながらビビリまくる。そこまで言うか!?って感じのリアクションによって、セガールのすごさはグングン上昇していくのだ。

 そしてクライマックス。石油会社の社長は最後まで抵抗を諦めず、社員が逃げ出す中で基地を守るためセガールに身一つで立ち向かう。この社長が、敵ながらあっぱれな頑張りっぷりだった。どんな外道でも、セガールと戦うからには相応の精神力を持っていないとセガールのすごさが映えないからだろうか。

 そんなわけで、セガール的リアリティに溢れてツッコミの余地もないエンディングに呆然としてしまった。こういうもんなの!?本当に!?大丈夫なの!?といまだに考えてしまう。セガールはこの作品で、己の武士道とは戦うエコロジストであると誇示していると書いてあったけど、こういうことだったのか。スゲェなあ…と思った。

カーくんのお疲れ超大作!『エグゼクティブ・デシジョン』(1996)

 アテネ発ワシントン行きの旅客機がテロリストによってハイジャックされた。機内にガス兵器が持ち込まれている事を憂慮した国防省は、特殊部隊を空中から機に潜入させる作戦を取るが、予期せぬトラブルが隊員たちを窮地に立たせる事になった……。(ツタヤディスカスより引用)

そして、遂にあのセガールと共演したアクション娯楽疲労大傑作『エグゼクティヴ・デシジョン』へと繋がるんですが、公開直前まで「奇跡の共演」と謳われながら、実質共演時間は15分強という結果。(66ページ)

 この作品は④の未知の作品であり、カート・ラッセル主演作だ。最初に言っておくと、この作品は普通に面白かった。爆弾の時限装置を解除するシーンはいかにも90年代っぽいハイテク感がしてレトロブーマーとしても満足感があったし、テロリストに見つからないように機内をはい回るハラハラ感は『エアフォース・ワン』(1997)より面白かったと個人的には思う。

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 そんな『エグゼ~』を語る上で欠かせないのが、DVDのパッケージを見ても分かるようにカート・ラッセルセガールが共演したという割には、セガールの出演シーンが少ないって話だ。実際、『エグゼ~』のセガールはこの年のゴールデンラズベリー賞最低助演男優賞にノミネートされたそうだ*2

 どういうこと!?と思ってしまうが、これ以上この本から引用するとセガールについての作品のネタバレが生じてしまう。なので詳しくは、本編を確認してほしい。

 しかし、私が90年代以前の映画を見る際に参考にしているツタヤの『シネマハンドブック2002 洋画編』(非売品)に掲載されたこの作品のあらすじは、セガールの運命について盛大にネタバレしていた

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『シネマハンドブック2002 洋画編』214ページより。ちゃんとモザイクかけておいた

 そんなにこの映画のセガールは重要ではないのか!?いや重要だよ!私は重要だと思っているので、かたくなに秘密を守るよ!

 謎が謎を呼ぶ『エグゼ~』のセガール。海外ニキ達も"Sensei"ことセガールが珍しくサブキャラで出演したこの映画について、議論と憶測と誹謗中傷を飛び交わせていた。

 『エグゼ~』の背景について知りたくて、ググったら出てきたこの記事*3。記事タイトルとURLの時点でネタバレがあるのでここでざっくり説明すると、このサイトではセガールのこの不思議な役についての憶測を記事にした。その後、1991年に書かれた『エグゼ~』の初期の脚本を読んで確認したら、この段階ですでに実際の映画のような展開になることが決まっていたと分かったので、訂正を入れたようだ。

 記事に書かれていた憶測の内容はなんというか、私がBAMJを読んで考えたような内容だった。セガールは我が強い俳優なので、そういう協調性の無さが制作会社に嫌われたのではないか…という話だ。しかし実際にはそうでもなかったらしいのは、重要だ。

 それにしては、ブルーレイのパッケージが後ろめたい雰囲気になりすぎている気もするのだが…。

 これは、共演してるシーンが少ないから仕方ないねで済む話なのか!?顔だけでなくセガールの名前すら消えてしまったとは。ちなみにこの映画はiTunesでも見られるが、iTunesのサムネイルにはセガールがちゃんと居た。最近作られたサムネイルには居ない、ってことでも無いらしい。

 で、BAMJではカーくんと呼ばれているアイリッシュ男樹カート・ラッセル。私としては、この映画ではただのおじさんの役で出てきてるわね…と思ってしまった。

 『スターゲイト』(1994)や私の大好きな『エスケープ・フロム・L.A.』(1996)では脳筋キャラで出演していたけど、この作品のカーくんは本当に非戦闘員のおじさんの役で出てくる。悪いってわけではないんだけど、『デス・プルーフ』(2007)や『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)なんかを見ていると、アクション映画界隈のレジェンドの一人として、昔はもっとヤバかったし今もヤバい人の役で出てくる。そういう待遇で出演してくれた方が、見てて頼もしいんだけどな…などと考えてしまう。

 この映画のカーくんは、なんだか期待外れだった。ジャンボジェットのスチュワーデス役のハル・ベリーが、小顔目デカで超かわいかったことの方が印象に残っている気もする。それ以上に、セガールについての疑惑の方が面白いのではないか。とにかく、90年代のセガールを語るうえで、非常に重要な作品の一つには違いないだろう。

「最強」セガールに疑惑発覚!?『沈黙の断崖』(1997)

 スティーブン・セガール主演の人気アクション“沈黙シリーズ”完結編。ケンタッキーの険しく雄大な山岳地帯を舞台に、巨大な陰謀に立ち向かう男の姿を描く。美しい渓谷をバックに繰り広げられる過激なアクションの数々。断崖の山道を猛スピードで駆けめぐるカーチェイス、地下の洞窟での銃撃戦や大爆破の炎上シーンなど、ド迫力のアクションが満載。アメリ環境保護庁(EPA)の調査官ジャック・タガードは、殺された同僚調査員の足跡をたどって、アパラチア山系にある小さな町に乗り込む。だがそこで彼を待っていたのは、静かな山々を揺るがすような大きな陰謀だった・・・。(ツタヤディスカスより引用)

 この作品はBAMJで扱われているセガール映画の中では最新作であり、個人的には④未知の作品だった。あらすじを読んでも分かるように、『沈黙の要塞』の舞台をケンタッキー州のど田舎に移し、話の規模をダウンサイジングしたような内容である。

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 比較的こじんまりした話なので、ファン以外の人は見なくてもいいとは思う。ただあなたがセガールがやたらケツの穴の話をする異様な光景を見たいなら、話は別だ。

 ど田舎に現れたセガールは、地元の人たちと比較すると明らかに異質な存在として描かれる。衣装の色がビビッドだし、身長も肩幅もクソデカいので悪目立ちする。なので、炭鉱会社に雇われたチンピラたちに囲まれてやーいオカマ!とかそんな定番の台詞で罵倒されるわけである。しかしセガールはそれに対して、数倍ヤバい台詞で応戦するのであった。

 まず最初のほうのシーン。山の中をうろうろしていると、マリファナ畑っぽい場所に出てきてしまった。そこにいた悪党に銃口を向けられるのだが、セガールはこう言う。「かわいい口してるなぁ!」そして股間を蹴り上げる。

 セガールはチンピラの集団に襲われる。しかしセガールなので、角材を振り回して全員ボコボコにする。その際に言った台詞が「肛門科に行って薬を貰え。今のうちに薬をよく塗り込んでおくことだな」。その後、言った相手に再会すると「肛門科はどうだった?」と追い打ち。

 敵の大ボスをついに追い詰めた。セガールは権利の朗読をするでもなく、こう言う。「お前は懲役30年くらいになるだろう。刑務所にホモの知り合いがいる。ホモの喜びを教えてくれるから、安心してケツの穴を差し出せ」大ボスは恐怖し、セガールに向かって発砲する…。

 だいたいこんな感じである。

 どうしてこうなった。軽い気持ちでからかったら、ガチでケツの穴に攻め込んできそうな凄みがあるではないか。セガールはどうして今回こんなキャラになってしまったのだろうか。BAMJは勝手に推測する。

 その原因を勝手に予測してみると、セガールは『沈黙の断崖』クランクイン直前に三人目の妻と離婚していた。これは単なる離婚でしかないと当初は考えていたが、妻のいなくなった後に撮った作品で、これだけ意味深な発言が繰り返されていると、何か新しく甘美なジャンルを開拓してしまったのでは?と真剣に心配してしまうほど、セガールは何かおかしかった気がする。(19ページ)

 真相は分からない。しかしそういう凄みに溢れた作品は、実際に存在した。とりあえずBAMJが無かったら絶対見ることは無かった映画だよな、と思った。

章タイトルになっていた映画

ガッツ兄ィのボクシング・グルーブ!『カンバック』(1991)

 章タイトルになっていた映画は全部で4本。以下で紹介する3本と、ガッツ石松監督・脚本・主演の『カンバック』(1991)だ。BAMJに掲載された数少ない邦画*4のうち最も大きく取り上げられていた作品だが、残念ながら見る手段が無さそうだった。松竹のデータベースにラストまでのあらすじが掲載されているので、気になる方はご覧いただきたい。

www.shochiku.co.jp

 筆者によると、この作品のガッツ石松は全盛期のジェームズ・ブラウンが醸し出す雰囲気に限りなく近いそうだ。それはとにかく自分に酔っている裸の俺様による、俺様のための俺様エンターテインメント的な内容らしい。

 まず幕開け。ボクシング試合会場で「ボクシング?ゲームです」とフカす人気若手ボクサー(お坊ちゃん育ち)の試合を眺めるバンドご一行の姿が映し出される。地井武男(ボビー・バード)が先鋒をきって「こんなの気の抜けた炭酸みたいですね」だの「オヤっさんのころのは飢えた獣の戦いだったのに」とのベタなイントロダクションで観客をアオルと、いよいよ元チャンピオン・現焼き鳥屋のオヤジ「鈴木丈」ことガッツ兄ィ御大が登場し、出だしをキメる!!!ジャーン!!

「俺ぁバカだからうまくいえね」……

 グッゴー!!(133ページ)

 こんな調子で登場人物をオリジナルJBズのメンバーに例えながら、そのライブが開催されているかのような解説が結末までネタバレ全開で進んでいく。

 その記事の書き方は実際にガッツ兄ィが歌っているのか、作者の妄想なのかが未見の人間には判然としない。しかし筆者がめちゃくちゃに興奮してライブを疑似体験している事実だけは、とりあえず伝わってくる。そしてそこに書いてある展開が実際どういった映像なのか、自分の目で見たくなってしまうのである。ちょっと卑怯だよな、こういう文才。

 あと筆者は酷評していたが、久石譲先生によるスーパーマーケットのBGMみたいなシケた音楽が個人的にはとても興味がある。これがガッツ兄ィのソウルから最もズレているこの映画唯一の欠点らしいので、そういう評価も自分の耳で確かめたいと思った。

90年代最後の荒唐無稽!『ロング・キス・グッドナイト』(1997)

 小学校教師サマンサは夫と娘との生活に満足していたが、八年以上前の記憶がないことに不安を覚えていた。私立探偵を雇って、自分の過去を調べさせていた彼女。ところがある日、殺し屋が襲ってくる。それをきっかけにしてサマンサは私立探偵ヘネシーと共に、自分の過去を探る旅に出た……。レニー・ハーリン監督とジーナ・デイヴィス夫妻がコンビを組んだスーパー・アクション映画。(ツタヤディスカスより引用)

 BAMJでは1章を割いて解説してあるこの『ロンキス』。全く知らないタイトルだったので、この本の影響で最初に見た映画だ。まさに④未知の作品である。あと①。この作品は配信サービスでは見られず、レンタルならツタヤディスカス以外では見れない。ただブルーレイは出てる。

 監督は『ダイ・ハード2』(1990)『クリフハンガー』(1993)等で界隈に名を知られていたレニー・ハーリン。159ページでは80年代ハードロック風のロン毛ブロンドにうすらデカいガタイのテロリストみたいなヤツといわれている90年代アクション映画界隈の重鎮である。アクション映画の監督にして、敵キャラみたいな風貌の人ってことだ。movie-tsutaya.tsite.jp

 1章を割いて解説してはあるのだが、内容はこの『ロンキス』について全体的にハイテンションに喜びつつも、キレのいいツッコミだらけだった。

 アクションシーンは本当にすごいんだけど、ストーリーが大味で特に前半は眠い。なので大コケしたし世間には見向きもされていないんだけど、俺は大好きだ!という感じの内容である。要するに、素直には褒められないんだけど、すごいところはすごいから好き!というオタクの歪んだ愛情がひしひしと伝わる内容だった。

 製作予算は100億ドル。脚本をシェーン・ブラックから買った時の価格は、当時のハリウッド最高額である400万ドル。しかしその予算は1ミクロンも回収できていないはずと書かれている。どういうことなのか気になるじゃないか。それで実際に作品を見てみたら、確かに記事に書いてある通りの感想を抱くことになった。

つまり『ロンキス』とは、これまでのアクション映画、パニック映画、マーシャルアーツ、大量殺戮、勧善懲悪等のキワモノ的設定を全てぶちこんで煮詰める前に食ったらやっぱ生煮えだったような作品なんです(リスペクト!)。それもすごく味付けが濃い。(81ページ)

 ストーリーは確かに大味だった。冷戦が終わってから911までの、つかの間のポスト冷戦時代。冷戦中に活躍したスパイはこれからどうなる?そしてスパイを養っていたCIAは?という着眼点はいかにも90年代らしいのだが、やることが無茶苦茶としか言いようがなかった。

 目的は確かにわかる、でもやり方が現実離れしてんだよ!いや、映画だからこれで良いのか!?などと、フィクションの世界に溶け込めずにツッコミを入れたくなる展開があまりにも多い。そして笑わせたいんだか、真面目なんだか分からない場面も多かった。笑えないかといえば笑えるんだけど、登場人物が真剣な顔をしているので本当に面白がっていい場面なのかいまいちわからないんだよな…!

ここからの展開は「肝っ玉母ちゃん地獄のコマンドー」としか表現できず、前半とは違う作品ではないかと思うほどに目詰まり気味なアクション&バイオレンスが炸裂。あとはもう見てください、直接。(80ページ)

 しかし、クライマックス30分間くらいに凝縮されたアクションや爆発シーンは有無を言わせない見ごたえがあった。目詰まり気味と書かれているが、たしかに見せ場の密度が高すぎる。メリハリという概念が狂っているとしか思えないほどに、すごいアクションシーンが連続するのだ。

 椅子に縛り付けられたサミュエル・L・ジャクソンが、爆発するモーテルの中から飛び出して看板を突き破るシーンは、その爆発に至るシーンまで含めて大笑いしてしまった。いやいやいやその人形の股間からガソリンが出てくるシーン、ふざけているわけじゃないんですよね!?と何度も思ってしまうが、たぶんここは笑っていい場面なんだろう。

 そんなわけでどこまでが真面目なのかギャグなのか判然としないけど、激アツなアクションシーンと爆発が素晴らしい『ロンキス』!この本が無ければ決して出会えることは無かっただろう。ありがとう、BAMJ…。

 この作品の公開後、ジーナ・デイヴィスレニー・ハーリン監督は離婚した。ここまではBAMJに載っている通り。さらにこの本によると、ブルース・ウィリスとスタローンとジーナからは「レニーの映画には二度と出たくない」と言われているらしい。

 しかし『ロンキス』の撮影について「今までの映画人生、いや生きてきて一番辛い体験」と言ったというサミュエル・L・ジャクソンはその後『ディープ・ブルー』(1999)に超おいしい役で出演し、監督と一緒にブルーレイのオーディオコメンタリーにも仲良く出演していた。そしてスタローンも『ドリヴン』(2001)で主演している。この監督の映画に出るのはもうこりごりだと絶対思ってるよ!と視聴者には思わせつつも、男のロマンを実現してくれる人として実際信頼されていたらしいハーリン監督であった。

ファースター・エイリアン・バグズ・キル!キル!『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)

 ブエノスアイレスで高校生活を送っていたジョニー・リコは両親の反対を押し切って軍隊に入る事を決意する。《中略》ついに機動歩兵としてバグズの本星へ突撃したジョニーだったが、彼がそこで見た物は敵の圧倒的戦力の前に簡単に殲滅していく地球軍の姿だった……。(ツタヤディスカスより引用)

オランダといえば、でかい風車と木靴とチューリップというイメージだが、今後は「ヤン・デ・ボンポール・バーホーベンが生まれたバイオレントな国」と認識して頂きたい。(174ページ)

 『スターシップ・トゥルーパーズ』はオランダの鬼才ポール・ヴァーホーヴェンの代表的な作品の一つであり、この本の中では1章を割いて紹介されている。この作品はだいたいどのサービスでも見ることができる。

 有名な作品なので、昔からタイトルくらいは知っていた。しかしソフトの販売元がブエナビスタと書いてあるのを見て、何だディズニーか…と思って甘く見ていたため、私はその存在を完全にスルーしていた。だが今回このBAMJででっかく紹介されていたため、慌てて鑑賞した。これってそんな、オタクが大歓喜するような映画だったの!?と再発見したようなものなので、④未知の作品に含めても良いと思う。そして、②と①でもある。

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 この作品を見て人がたくさん死んでて楽しかった!と感じてしまった人は、きっと『ランボー/怒りの脱出』(1985)や『男たちの挽歌Ⅱ』(1987)も楽しめると思う。何かこう…認めたくない自分の性癖を発見してしまうような作品だった。じっさいタッチストーン・ピクチャーズは出資しただけで、製作したのはランボー怒りのシリーズやエメゴジでお馴染みのトライスターであった。そう聞くと納得感はある。

 まず、こちらの記事をご覧頂きたい。でもネタバレを気にする人は、見ないほうが良い。

cinemore.jp

 好き嫌いが激しく分かれる映画だとか、監督はファシズムを礼賛していると批判されたとか、ブレヒトの影響とか色々と難しいことが書いてある。

 ハァ〜〜〜〜ッ!知るか〜〜〜!!!こいつぁバーホさんが目指した究極の悪趣味スプラッター超大作なんだよ!…という感じで、BAMJはこの作品を紹介してくれる。それはもう、圧倒的な賛辞である。

 そもそもこの作品はハインラインの小説『宇宙の戦士』をもとに作られている。しかし原作本の核になる部分にリスペクトが無く、より人が死にやすいように脚本が改良されているとしか思えない。ついでに監督は撮影半ばまで原作小説を読んでいなかったことに触れ、『トータル・リコール』(1990)の時もフィリップ・K・ディックの原作本を読んでなかったらしいし、最高すぎます!と評価する。BAMJのこういう評価基準、好きです。

 たしかに、有名なあの表紙のパワードスーツが出てこない。全く出てこない。原作本を読んでないから、こだわらないってことか…!?とその事実にも妙に納得がいく。予算の都合の可能性もあるが、やっぱ人間がスラッシュされるシーンをたくさん入れたかったからなんじゃないの、というBAMJが立てた仮説には信憑性を感じる。

実は『スターシップ』はハリウッドが産み落とした「ハードコア・ワークス」またはタイの死体雑誌であったとハッキリ断言しよう! しかも全ての特撮、原作のストーリーはまさに死体を積み上げるために必要な「言い訳」でしかなかった(173ページ)

 そこまで言い切るの!?ていうかタイの死体雑誌って何!?などと思ってしまうが、BAMJは断言する。たしかにあの執拗な死亡シーンへのこだわり、そして四肢が千切れた死体がゴロゴロ転がる場面の多さ。これはよっぽど死体が転がってる場面が好きでもなきゃ、わざわざ入れたりしないでしょ!とは思えた。

 上記のシネモアの記事によると、この作品は軍国主義国家の戦意高揚映画のパロディであり、それは第二次世界大戦中にディズニー(≒タッチストーン・ピクチャーズ)がやってきたことにも通じるのだという。劇中のプロパガンダ映像のノリを見ていれば、この説にも大いに納得だ。しかし結局は、そのファシズムを批判する真面目さと、人が死ぬのって楽しい!というエンタメ性の両方を2:8くらいの割合で併せ持つスーパー悪趣味大戦こそがこの映画の本質なんだろうと思った。『女王陛下の戦士』(1979)や『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』(1985)なんかの過去作を見て、バーホさん好みの顔面もだんだんわかってきた時なら何となくそう思える。この御仁は不真面目な表現にこだわるのと同じくらい、真面目に狂った自分の信じる世界観を表現したくて映画を作っておられるように感じるからだ。

 しかし何だかんだ言っても、『スターシップ』はとにかく意識高いエンタメ作だ。私はこの映画の殺戮シーンそのものよりも、その他色々の悪趣味シーンの総量に感銘を受けたんだ!バーホさん最高!!90年代のバーホさんは悪趣味とバイオレンスがインフレーションしててほんと素晴らしい!癖になっちゃう!

 ただ、『スターシップ』は3人の若者のキラキラした友情がメインの映画という気がしてて、バーホさんの映画の中で一番好きかと言われればそうでもない。人間のクズを描かせたら右に出る者はいないと私が確信している監督*5の持ち味が、あまり感じられないような気がしていて残念に思えてしまう。『スターシップ』は全体的に世界観が狂っているせいで、人間のクズと呼べるほどの悪人が出てこないからな〜。

 そんな個人の感想はさておき、当のバーホさんがその後どうなったかについて書いておこう。バーホーベンはこの後も伸びると思うんですよ、とBAMJ巻末の対談には書いてあった。しかし実際には『インビジブル』(2000)を作ったことを後悔し、バーホさんはオランダに帰ってしまわれた。まあこの『スターシップ』の突き抜けた死亡者数と比べたら、それ以上の作品を作るのは難しいと思えるので妙に納得してしまう。

偏差値30のボクでもわかる面白さ!『ダブルチーム』(1997)

 香港映画界の巨匠ツイ・ハークが監督したヴァン・ダムの最高傑作。元CIAのクインのもとに、凶悪なテロリスト、スタブロフの暗殺指令が下る。作戦は失敗、スタブロフの幼い息子が流れ弾で死ぬ。しくじったクインも引退したスパイを集めた謎の島に軟禁される。が、スタブロフが妊娠中の妻を誘拐したことを知ったクインは島から脱走、武器商人ヤズの協力を得てスタブロフを追跡する。中盤に出てくるスパイ島は、「プリズナーNo.6」のパロディ。(ツタヤディスカスより引用)

 この作品はツイ・ハークの記事の中で大きく取り上げられていて、香港映画のノウハウとハリウッドの資本が合体した「奇跡の大傑作」であるとキャッチコピーが添えられている。この作品はYouTube(もちろん合法な有料レンタル)とかで見ることができる。

 BAMJでは、ジャン=クロード・ヴァン・ダムの魅力の一つは自分のアクションを美しく撮ることへのこだわり、つまりナルシシズムにあると説明される。それがブルース・リーへの憧れからドラゴンへの道を歩んでいたはずが、ナルシスへの道を進んでいたんだという話になっていく。そして『ドラゴンへの道』(1973)オマージュなのかもしれないクライマックスの戦いへと、超スピードで展開する『ダブルチーム』は絶対見逃せない作品なんだよ!ってことだ。

 ところで今これを書きながら、大変なことに気が付いてしまった。この記事、目次に掲載されていない。ちょっとどうしたのよ。なかなか気が付けない系のエラッタ案件じゃないの!ヴァンダムの記事が別にあるからと思って忘れられてしまったのか!?まあとにかく未知の作品だったので、これは④だ。そして③だな。

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 面白いか面白くないかでいうと、正直そこまで面白いわけではない。ただハリウッド映画と比較するとすごく個性的なので、その異様さが心に残るだろう。ヴァンダム主演でジョン・ウーがハリウッドデビューした『ハード・ターゲット』(1993)が普通のハリウッドアクション映画だったような錯覚を覚えるレベルで、『ダブルチーム』はツイ・ハーク流のやりすぎな演出が冴えまくっている。

 湿っぽい要素の湿っぽさが展開のスピードによって薄まってしまいそうなので、木製のおもちゃを画面に映すことで保湿効果をアップ。その上で限界までアクションシーンを入れて、ガラスを割りまくる。爆発しそうなものは全部爆破し、なんかミッキー・ロークのパワーを暗示するかのごときトラが出てきて画面を華やかに演出。ストーリーや設定の突飛さもハンパない気がしたのだが、そうはならんやろ!!とツッコミを入れる間もないスピードであっという間に通過していき、気が付いたらヴァンダムの筋肉が映っている。そんな感じである。無理が通れば道理が引っ込むということわざがぴったりだと思う。

 このクセつよつよ演出だが、過去作『ブレード 刀』(1995)や『金玉満堂〜決戦!炎の料理人』(1995)などを見て確認したところ、だいたいこの監督がやりたそうな路線は全部やれているように思えた。ヴァンダムのナルシス道に付き合いつつ、自分のテイスト全開でやることに成功しているので、奇跡の融合ってわけだ。

 BAMJによると、『マキシマム・リスク』(1996)のリンゴ・ラムヴァンダムの食い物にされたとのこと。『ユニバーサル・ソルジャー』(1992)でハリウッドデビューしたローランド・エメリッヒも多分そうなんだけど、とにかく俺を映しとけ!というヴァンダムの押しの強さに負けて自分の味を出し切れなかった監督たちの敗北っていうか何ていうかを見てきたツイ・ハークは、自分はそうはならんぞと気合を入れておられたのではないか。そんなことは思った。

やっぱりこれはツイ自身が熱望したというより、プロデューサーとヴァンダムが駒の一つとしてツイを香港から呼び出し、監督させた、いわゆる雇われ仕事なんだろう、なんて漏れ聞こえる情報を聴きながら思っていたが、しかし、そこは百戦錬磨のツイ・ハーク、撮影に長年組んできたピーター・ポウ、武術指導にサモ・ハン・キンポーと熊欣欣(殺し屋役で出演も)を連れてきて、重要なセクションは身内で固め、作品に対する気合を見せる。(192ページ)

 いちおう原文のまま引用したけど、1文が長すぎる!この武術指導のシャン・シンシンという方はホテルのシーンに出てくる裸足のカンフー使いで、ハーク監督作品の常連である。『ブレード 刀』では主人公の親の仇の役で出てきていたが、とにかく顔芸がすごい。声もでかい。この人の武術指導はとても厳しいので、さすがのヴァンダムも何も言えなかったのではないか、とも書かれていた。なるほどな。

 そんなわけで、見ている間に何も響いてこなくても、何かが異常だったという記憶だけは確実に残ると思う。そういう体験ができるってだけでも、私はこの作品を見て良かったと思えた。私は『男たちの挽歌Ⅱ』*6を見たとき、この世で一番押しが強い荒唐無稽を見たような気になっていた。しかし『ダブルチーム』を見たら、もっと上を行く方法があったことを知った。これが、香港映画とハリウッドアクションの融合…!という単純なことばでは説明しきれないカルチャーショックを感じる。とにかく衝撃なのである。ガラス割れすぎでは!?とかヤボなことを言っている場合ではない。

 そんなわけで、なんでトラが出てきて追いかけられたりするん!?という驚きのあまり、偶然にも寅年だった2022年の年賀状にしようとして、こんな絵を描いてしまった。12月中旬には正気に戻ったため、実際には送らなかったが…。

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つい描き始めてしまって後悔したファンアート

 あと、レトロブーマーとしては共演者のデニス・ロッドマンがとにかくおしゃれで、ロケーションが移動するごとに髪色が変わるサービス満点っぷりも良いと思った。もうとにかく理屈じゃない、見た目がカッコよかったらそれでいい!というケレン味を、ヴァンダムと二人で体現してくれている。『ダブルチーム』はそんな作品だった。

あの映画で一番すごいのは、バンダムでもロッドマンでもミッキー・ロークでもなくコカ・コーラの自販機だったね(笑)スポンサー最強!(211ページ)

 ついでにいうと、コカ・コーラの自販機が最強説もぜひご自分の目で確認してほしい…!百聞は一見にしかずというし、良くも悪くもBAMJ掲載作で一番のおすすめはこれだと思っているので、本当に見てください。

 この作品は興行的に苦戦してツイは干されたのか、スネたのか香港に帰って何か始めてたようだと書いてあるが、何のこたぁねえ。翌年ツイ・ハーク監督はヴァンダムを香港に呼んで作った『ノック・オフ』(1998)を公開した。この仕事の速さ、さすが香港って感じがする。

感想戦

 そんなこんなで、BAMJのおかげで私はぶっ飛んだ映画を何本も何本も見て、充実した時間を過ごすことができた。そこで漠然と考えたことをつらつら書いていきたいと思う。

90年代末時点の未来予測はどの程度当たっているか?

 お楽しみの②の答え合わせの時間である。個人的に面白かったのは、『トロン』(1982)に始まる映画のCGについての座談会だ。内容的にはやはりCGはズルいけどスゴいというような話題が中心で、半分笑いながらの雑談である。

 『トロン』ファンとしては、当時のガッカリ感を伝える文章を読んで複雑な気持ちになった。何だよこの205ページの夜の歌舞伎町みたいな映画だったね(笑)って!こんな作品でも熱烈なファンがいて、2010年とそれ以降に続編が公開されるなんて、BAMJを書いた人たちは思ってもいなかっただろう。それはまあいい。仕方ない。

daitokaiokayama.hatenablog.com

 当時のこんな空気感は、『トロン』のブルーレイの特典映像からも伝わってくる。『トロン』はアカデミー賞視覚効果賞にノミネートもされなかった。特撮とは実際に模型なんかを作って工夫して撮るべきものであり、CGはズルであるという価値観があったので、評価して貰えなかったのだと監督たちが語っていた。

 それはまあ、分からんでもない。私も『トラ・トラ・トラ!』(1970)の爆発シーンを見ることによって、セットが木端微塵になった瞬間にだけ摂取できる栄養素をチャージして、嬉しい気持ちになれたりする。でもCGにはそういうありがたみが無いじゃん!実際壊れてないんだから!って言いたい気持ちは分かる。『トロン』の場合はそのCGにも、アホほどアナログの手間がかかっているので、その辺も評価してあげてほしいのだが…。

 ディズニー初のフルCGアニメ『トイ・ストーリー』(1995)とか、CGのクリーチャーが人間を蹂躙する『スターシップ・トゥルーパーズ』、公開当時にはなかったCG技術を導入して少しリニューアルした『スター・ウォーズ 特別篇』(1998)、そして新作の『スター・ウォーズ エピソードⅠ/ファントム・メナス』(1999)の辺りで、CGの評価が全盛の時代が来ていたと思う。しかし『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』(2014)の頃になると、この爆発シーン本物らしいよ。CGじゃないってすごい!やっぱ実写が素晴らしい!みたいな価値観がいつの間にか戻ってきていたと私は思った。CGがすごいのは当たり前。それ以上の価値を生み出せるのはやはり実写の特撮あってこそ!みたいな、CGアーティストがいつまで経っても報われないような価値観が、アクション映画界隈にはあるっちゃある気がする。BAMJはすでにそこに気がついていた。

昔はCGのシーンっつったら、それが売りだったじゃないですか。これにはCGシーンが何カットあるとか、どこどこがCGだとか。そういうのが今やなくなって、CGの有難味がなくなりましたね。(214ページ)

 で、今はどんな3流でもCGを使うだけなら使えるので、これからは『エスケープ・フロム・L.A.』の波乗りのシーンのようなCGじゃなきゃできないだろうし、CGで表現したところで大したことはないような場当たり的な使い方だけが、目の肥えたマニアを喜ばせるCGになるだろうと書いてBAMJはこの座談会を締めた。

 まあ、うん、確かに。この作品は全体的にこんなノリだったと思うが、この場面は特に大真面目に馬鹿やってる感が出ていて、良いと思う。CGの未来がこうなってきたかは私には判断がつかないが、CGがズルだっていうんなら、いかにもブッ飛んだ使い方をして呆れさせてやるぜ!って感じの方向性だろうか。サメ映画とかは、こんな感じに進化してきた気はする。

 よく分からないけど、『ラ・ラ・ランド』(2016)のプラネタリウムで二人が宇宙に舞い上がって踊るみたいな、いかにも現実ではあり得ないけど雰囲気的には全然アリな使い方だったらCGの有難みがあって良いんじゃない?とかそんな意味なら、当たっているのかもしれないと思った。

 CG技術は目覚ましく進化している。しかし、有難みだけが失われて久しい。その有難みに気がつくことができれば、映画鑑賞は映画観戦という別の次元に飛躍する…のかもしれない。

BAMJのアクション映画観戦とは何だったのか

 では、この本のサブタイトルにもなっていた映画観戦とは何だったのか。

 BAMJを書いた人たちは、まえがきで「作品そのものよりも、俳優の個性や作家性を鑑賞する」ことの重要性を説いた。そして、デカ・バジェ・ムービーがやって来るんだから、その作品が持つ観客に対するサービス精神を全力で受け止めるべきであると力説する。

映画のストーリーを楽しむのではなく、「俳優の個性を理解する」、作品のテーマではなく「投入されたウン億万ドルの予算がどの辺りで浪費されたかを探る」、そして監督の過去の作品を踏まえて「パターンを楽しむ」ことです。この理念に従えば、巷のビデオレンタル屋で発売日にだけ大量入荷され、三ヵ月も経つと忘れてしまうような映画でも、何度でも鑑賞に耐え得ることができるでしょう、たぶん。(10ページ)

 これはパッと見ではつまらないかもしれない『ロング・キス・グッドナイト』のような作品を楽しむためには、必須のセンスだと思った。確かに、BAMJでハーリン監督の経歴やなんかを知ったうえで作品を見たときは、その過剰なサービス精神に感銘を受けることができた。こうすれば観客が喜ぶから!と監督が信じてやまない過酷な道を歩かされる俳優とスタントマンの頑張り*7に少しでも興味を持てば、アクション映画の面白さは別の側面から現れてくることがよく分かったからだ。

 予算についての考えかたも、今とはちょっと違うかもしれない。そういえば90年代までは、私財をなげうち会社を倒産させるといった壮絶なエピソードを持って出てくる映画が色々あった。今もあるのかもしれないが、そういった熱意だけは受け止めてやらにゃ!という気持ちを持つことも映画オタクには必要だったのかもしれない。今ではクラウドファンディングでC〜D級映画制作に観客が直接出資できたりするし、作り手との距離感は90年代と今では確実に違っているのだと思う。多分。

 あとハリウッドの外から来た監督たちとヴァンダムの、自分の味を作品に押し出したい気持ちなんかも、実に「観戦」し甲斐があるテーマだと思った。監督と俳優、どっちの力が強い現場なのか?そういうパワーバランスの緊張感が感じられる作品を見ていると、確かに流れ弾が当たらない安全圏から観戦している気持ちになれた。

 もちろん、見たまんまのエンタメ性を楽しめ!!アクション超大作とは、全ての階級が手放しに楽しむことができるA級ムービーなのだから!という話もしてはいる。しかし結局、作り手の人間らしさを理解することで、映画鑑賞はもっと楽しくなるという当たり前のことを再確認させてくれたんだと思った。

だから映画を「鑑賞」に行くっていうよりも、アクション映画は「観戦」(笑)だよ。弾に当たらないところで見ているって感じ。(90ページ)

 だが悪いとこもある。デカ・バジェ・ムービーを礼賛するついでにミニシアター系の作品を貶すような書き方は、余計だよなぁ~と思った。スケールがやたらでかい出来事を扱ったようなアクション映画こそが真に映画的な映画であり、『パリでかくれんぼ』(1995)みたいなどうでもいいような小さなことが映画になっちゃいけないんですよ(90ページ)ってのは、さすがに断言しすぎじゃろとは思う。この『パリでかくれんぼ』って作品、ツタヤディスカスにも無いんで見れなかったんすよ!タイトルだけ出さないでくださいよ、中身が気になっちゃうから!!

 まあ自分に箔をつけるために映画館に行くなどというような、ファッション感覚な野郎がムカつくってのは分かる。オタクは遊びで映画館に行くわけじゃないんだよ!という気迫は伝わってきたが、具体的なタイトルを出す前にちょっと落ち着いてほしかった。*8

さいごに

 私がこの記事で紹介した作品などに共通しているのは、俳優や監督の強烈なエゴによって作品世界の因果律やら何やらが捻じ曲げられており、静かな狂気をはらんでいるという点だ。シリアルキラームービーにありがちな、ほらほらこいつ頭おかしいでしょっ!って感じの演出とは違う。登場人物の頭おかしさを表現しているのではなく、造り手の頭おかしさが作品ににじみ出ていたと思う。

 これらの作品を鑑賞していけば、うっかりすると気が付かないうちに普通じゃないことが起こっているようなナチュラルな狂気を浴びて、狐につままれたような気持ちになれることは確かだ。それはつまり、アクション映画という濁流に身を任せ、野蛮な世界に自分を昇華させるとか、巨大な架空現実に浸るという、前書きに書かれていた正しい鑑賞方法に付いて行けてないってことなのかな…と思った。

*1:セガールTRPG
Webサイト上で無料公開されているTRPG作品。クライマックスまでに最もセガールらしい行動をしたキャラクターが実はセガールだったことが判明し、無双するのが特徴的なシステム。

*2:エグゼクティブ・デシジョン - Wikipedia
この年の最低助演男優賞は『D.N.A./ドクター・モローの島』のマーロン・ブランドが受賞した。あれに出てこられると、さすがのセガールでも勝ち目はないと思えるビジュアルなので、仕方がないな。

*3:エグゼクティブ・デシジョン』についての記事。タイトルの時点でもうネタバレしてるので、注意が必要である。コメント欄が大荒れなので、読むとちょっと楽しいかもしれない。

UPDATED: About Seagal's Early Death In Executive Decision… | ManlyMovie

*4:武田鉄矢の『刑事物語』シリーズはマーシャルアーツ映画だ!という話などが少し出ていた。

*5:映画秘宝の『冷酷!悪漢映画100』の『ロボコップ』の項では、下衆な人間を描かせたら世界一の監督といわれている。

*6:言うまでもなく、ツイ・ハークがプロデュースしたジョン・ウー監督の作品である。

*7:クリフハンガー』のエンドロールには、前半の飛行機アクションシーンで決死の大スタントをキメたのはこの男だ!と分かるような見出しつきで、スタントマンの名前がバーンと表示される。監督なりの、スタントマンへの敬意のあらわれなんだと思う。

*8:あと、インドのデカ・バジェ・ムービーを映画館で見ようとしたらミニシアターに行くしかない場合もあるので、ミニシアターばっかり行くようなヤツを一概に貶すこともできなくなっているよな、と思った。

『女神の継承』覚え書き

犬の外見をあまり覚えていないので申し訳ないんだけども挿絵には描いておきたかった

前置き

  チキンすぎる私にとっては、外出して遊ぼうという気力が萎えるほど新型コロナウィルスの感染状況が酷い夏休みであった。実家に帰省どころではない。もう本当に生活必需品の買い出し以外の用事で外出できていない。

 しかし、せっかくの夏休みである。1本くらい、映画館で映画を見ておきたい。今年はいちおう行動制限のない夏休みなんだぞ、不要不急の外出は控えたほうが良い状況とはいえ、もう部屋に1日中籠っているのもしんどいんだ…。

 そんな時分に出会ったのが、『女神の継承』である。岡山市内のミニシアターでは8月19日が初日だったが、このタイトルを知ったのはその3日くらい前だった。

 なんか、今年最強クラスの怖いヤツらしい。ツイッターで感想を見ていたら、メンタルに余裕がある時に見た方が良いとか書いてある。そんなにヤバいの!?と思ったら逆に気になったので、メンタルに余裕があるか否かは自信なかったがエイヤっと見に行った。そしたら面白かったので、あっという間にこれだけ感想文を書いてしまった。

 今回の記事はネタバレありである。というわけで、劇中たいへんな状態になっていたミン役の女優さんが笑顔で登場するこの動画でワンクッション置いておくので、覚悟ができている人だけこの先をご覧いただきたい。『哭声/コクソン』の監督がプロデューサーってことだからか、予告編のナレーションは國村隼である。

 

感想

 『女神の継承』、とにかく最悪なことばかりが起こる。考えうる限り最悪である。見終わった直後は、こんな映画をなぜ作った!!と思ったが、要するに「そんなにワシのことが嫌なんかい!そんなにワシが信用できんのかい!!」と怒りまくった女神の復讐ストーリーだと思えば、まだ納得できる話ではあった。

ドキュメンタリーな序盤

 序盤。韓国のマスコミがタイの精霊信仰を取材している中で、ニムさんという霊媒と知り合い、密着取材を始める。ここまではまともであった。

 ニムさんはバヤン様という女神の巫女の家系の出で、先祖代々この役目を継承しているという。本当はニムさんの姉がこの役目を継承する予定だったが、姉はそれを嫌がったため、ニムさんが巫女になった。ニムさんも最初は嫌だったが、あまりにも苦しいので結局女神を受け入れ、巫女になった。いわく、「今はどうして嫌だったのかも忘れた」と。

 今思えば、この時点でフラグは立っていた。姉が巫女の役目を拒否したってのは、なんか嫌な予感がする話だ。姉はバヤン様の巫女になるのを嫌がるあまり、キリスト教に入信したという。露骨に別の神にすがってしまったのか。それヤバない?

 さらにニムさんの話は続く。バヤン様に祈ることで、心霊現象的な体調不良は治療する。しかしがんの患者が治療してもらいに来たなら、病院に行かせると。

 うん。まともだ。現代に生きるシャーマンがよく言う合理的な台詞って感じがする。現代人の感覚としては、まともな回答である。

 そして、その姉の娘のミンが登場。何やら最近心霊現象に悩まされている様子で、もしかしたらバヤン様の次の巫女に選ばれて、神がかっているのではないかと撮影スタッフは考える。もしかしたら、巫女の継承を撮影できるかもしれない!ということで、ミンの密着取材も始まるのであった。

 この辺から、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』以来脈々と続くファウンド・フッテージものフェイク・ドキュメンタリー風ホラーが本格的に始まる感じがする。

 もうそういうの、見飽きたんよ。

 しかし、これはその辺の低予算C級ホラーではない。韓国のA級ホラーである。ドキュメンタリー番組としての雰囲気も良くできており、BSプレミアムで放送予定とか言われても違和感のないつくりあった。そういう状態で始まっているので、ここからどう転がるのか期待して見続けることができる。まあ、確かに最後のほうは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』みたいな演出になっていくんだけどな。

 

 ミンの母親は現在、市場で犬肉を売る仕事をしている。一方で、家ではかわいいマルチーズ犬を飼っている。

 この辺で、ちょっとおかしいぞと思えてくる。「鯉を飼っている人も魚を食べるでしょ。それと同じ」とは言っているが、それはそれ、これはこれというダブルスタンダードに違和感を感じる。

 単刀直入に言うと、このかわいいワンちゃんは後半で死ぬ。その死に様は、今までに私が見てきた犬猫の死亡シーンの中でも最悪クラスのひどさであった。

 韓国でも犬肉食べるらしいじゃん…?タイでも食べてるのか。

 その辺の意図はよく分からんが、このダブルスタンダードも、今思えばワンちゃんの死亡フラグだったのだと分かる。人間は、対象の都合のいいところだけ利用しようとする。合理的ではあるんだけど、白黒はっきりしないこの感覚は、現在の氏子たちのバヤン様に対する感覚と同じでもあるのだろう。困ったときだけ神頼みされても困るんだよ!というバヤン様の気持ちも分からんでもない。

 そういえば『哭声/コクソン』では、國村隼が演じる"日本人"がふんどし一丁で生肉をむさぼり食うシーンがあった。これがとにかく衝撃的なもんで、しばらくは國村隼を見たらすぐこの場面が脳裏にちらつくようになってしまった。で、その現場を見てしまった地元の人たちがアイツヤバいって!と言い合うシーンもあるのだが、それが肉屋のイートインコーナーで生ユッケを食べながらの話だったので、笑ってしまった。あの場面を思い出したりもした。

 人間は、無意識に矛盾した言動をする。そういう変な言動、皆も意外とやってるよね!みたいな話もこれらの作品の意図として設計されているのかもしれない。

だんだんホラーっぽくなる中盤

 中盤、ミンは発狂して行方不明になる。この辺で、ニムさんと姉のちょっと険悪な感じがやっと和解してくる。ニムさんは姉を励まし、とりあえずバヤン様に謝るように言ったりするのであった。多分バヤン様も許してくれると。

 今思えば、バヤン様は決して許してはくれなかったわけである。というか最初から許す気も無かったのだろう。

 何とかミンを探し出したニムさんは、ミンに憑いた悪霊が自分の手に負えないくらい強力であることに気がつく。それでも諦めないニムさんは、知り合いの霊能力者に相談する。その結果、ミンに憑いているのは、何か復讐の意志によって団結した無数の魑魅魍魎たちであるらしいが、もはや正確な正体は不明だと知らされる。

 復讐の意志で団結!まさに悪霊アベンジャーズである。発狂したミンは「あたしはバヤンだよ!何者なのか当てみな」などと挑発してくる。とりあえずミンの口からバヤン様の名前が一応出てきたので、悪霊軍団のメンバーにはバヤン様も入っていると解釈することもできる。それはそれで最悪なことだが、たぶんそうなんだろう。

 さらに、首切り役人か何かだった父方の先祖の影響。女神を拒否した母親の業。ついでに最近ミンが変な儀式に参加したせいで、更に色々と悪くなってしまった結果が現在のこの状況だと分かる。エンドクレジットにpseudo priestとかそんな役名が出ていたので、たぶん怪しい霊能者のところにミンを連れて行ったらニムさんにめちゃくちゃ怒られた場面のあの儀式が、マジでダメだったってことなんだろう。つれぇなー。

 ところでこの、先祖代々の因縁の話が出てきたときの絶望感よ。『八つ墓村』の「末代まで祟ってやる!」みたいだとも思ったし、具体名は避けるが今話題のアレっぽいとも思った。なんで今ここでミンがひどい目に遭わなきゃいけないの!と姉も嘆いているが、お前さんの自業自得だから諦めなよとは決して言わないニムさんは本当に立派である。

 とりあえずミンが見つかった廃墟で、大規模な除霊の儀式をすることになった。このへんは『哭声/コクソン』でも見た展開な気がする。これから除霊バトルが始まるんじゃな。大規模な儀式なので、人手も必要だし、供物の準備もたいへん。儀式当日までの間、ミンは自宅で様子を見ることになった。

 予定が立ったので安心だ!と思ったら、儀式当日までの間は『パラノーマル・アクティビティ』とかで見た感じの悪魔憑きヤバ怪現象を、例によって定点カメラの暗視映像で見せてくれる。この映画、ホラー映画の各サブジャンルの全部盛りって感じがするな。

 何が起こるかはさておき、この定点カメラのシーンはびっくり系のイベントを発生させてくる。そのため、血の気が引いて体温が下がる感じがした。私はこの映画を見ながら何度か飛び上がって驚いていたはずなので、後ろの席の人は見てて面白かったはずである。

 特に、夜中に脱走したミンを探す場面。この場面は斜め後ろから人の泣き声が聞こえてきた気がして、振り返ってしまった。もちろん観客が泣いているのではなく、映画館のサラウンドシステムがいい仕事をしているだけである。この音の使い方は上手い。映画館でホラーを見ると、後ろから音が聞こえてきたりしてビクッとできるんだな。おもしれー。

 で、犬が死に、バヤン様の像の首が何者かに折られ、なぜかニムさんも死んでしまい、絶望のなかで辛うじて儀式だけは決行される。

 儀式の現場の廃墟は動物の死体が転がり、巨大な木根に侵蝕され、そして誰かが邪神の祭壇を作ったような形跡かあったりする。森羅万象のヤバい霊の巣窟って感じのロケーションである。低予算ホラーなら、この建物の内部だけで1本撮れるくらい絵になる場所だと思った。

狂乱の儀式開幕!な終盤

 ここからの展開は、撮影クルーも巻き込んだ殺戮シーンの連続になる。ぶっちゃけると、もう正視してられねぇレベルの恐怖であった。

 助かるかも!と思って犠牲者を一旦安心させたあと無慈悲に殺すことによって、新鮮な恐怖シーンが演出されるのだという。『テリファー』*1はそういう演出が巧みだった。

 儀式が始まって以降のシーンは、このセオリー通りの恐怖に満ちていた。あれ、助かるのかな?と視聴者を安心させておいて、いちばん見せたい恐怖を視聴者に見せてくる感じ。私は騙された。見てしまった。この映画の演出は巧すぎる。怖すぎて巧すぎて、笑うしかなかった。

 この辺に来ると、もはや観客としてもバヤン様に祈ることしかできなくなってくる。

 序盤には磔にされたキリスト像が何度も画面に映るが、これもきっとフラグだ。誰かが罪をつぐなうために犠牲になれば、この現象もおさまるかもしれねぇ!『エクソシスト』もそうだったじゃん!頼むー!どうかお怒りを鎮めたまえー!!!どうかーー!!

 ああ、これはたぶん、菅原道真公が太宰府にお祀りされる以前の感覚なんだろうな。もう降参です、これからはリスペクトします。だから許してください!そんな感じで、荒ぶる神の前でいかに人類が無力であるかを痛感させられる場面が、これでもかと続く。さっき少し下がった体温は緊張と焦燥感のあまりだんだん上がってきて、私はじっとり汗をかいていた。

 そして終劇。ニムさんの生前の最後のインタビューが流れる。救いがない。マジで救われない。最後の最後に何か希望があるかもしれないと思い呆然とエンドロールを見続けたが、特に何事もなく場内が明るくなった。

 なんでこう悪いことが続く。どうしてニムさんまで死んでしまったの。どうして…と思いながら絶望せざるを得なかった。

 しかし要するに、冒頭に書いた通りであった。女神と呼ばれているバヤン様は、とにかく怒っているのである。

 人間の信仰が曇っている。巫女の一族すら例外ではない、というか巫女自体への怒りがデカいのであろう。巫女になることを拒否したばかりでなく、汚れたカルマの家系の男と結婚して犬肉を売るとは何事か。そういう怒りが爆発し、人間、動物、さらに植物の霊をも復讐のためにアッセンブルするに至ったのだろう。

結論 めちゃくちゃ怖かったです

 いやぁ、なんていうか…救いを求める気持ちって、私自身にもけっこうあるナ。私は映画館を出てから呆然としてしまった。

 MPがごっそり減っている。明らかに判断力が低下していた。城下地下駐車場の出口でテンパってしまい、家までの道のりで危うく迷いかけた。

 正直言って、家に着く前に死ぬかと思った。見たら呪われる系の映画か!?そう思えるくらい消耗していた。

 部屋に帰り着いたとき、ようやく気がついた。女神目線だと、なんか理解できる。人間は救われないが、女神は復讐を達成して満足しているだろう…。そういう作品だと思ってやっと納得できた。

 そんな感じで、めちゃくちゃ怖かった。それだけは確かだった。

 映画を見終わったあと放心状態になっている人には、キャストが映画について語っているメイキング映像なんかを見たらちょっと落ち着くかもしれない。というわけで、キャストが来日した際の記事のリンクを置いて終わりにする。

 ミン役の女優さんはすげぇよ!悪逆無道の限りを尽くしたうえに、見る人の生理的嫌悪感に訴えるアレやこれもやってのけたわけで…。

natalie.mu

*1:すごく怖いので、ついでにぜひ見てください。

テリファー(字幕版)

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  • ジェナ・カネル
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【アップデート有】イラレで絵を描いたら捗ったのでその時の話とか

枠線からはみ出しまくって大丈夫なのもイラレの強み

動機

 暦の上ではもう夏であることを、NHK俳句を見ていて知った今日このごろ。この文章を読んでいる皆様はいかがお過ごしだろうか。私はジョン・ロビンソンのベスト盤とか聞きながら、相変わらず90年代ブームに沸き立っている。

 今回は最近異常に絵を描きまくったので、その話をする。まず動機から話をはじめたいと思う。

 去年の大型連休は卓しながら映画見てダラダラ過ごしていたが、今年は規則正しく生活し手首をいたわりながら毎日絵を描いてた。湾岸ミッドナイトの。

 なぜ湾岸ミッドナイトなのか…?そういう話は今回はしない。まだ全部読み終えていないからだ。いや、あえて全部見ることをしていないともいえる。

 悪魔のZのせいで、7年ぶりに電書サイトに課金した。悪魔のZのせいでn年ぶりに〇〇したって話は、湾岸ミッドナイト作中の社会人たちによく起こることだが、似たような現象が自分にも起こっていてびっくりポンなんだよナ!!!

 面倒くさい話は省略するとして、自分がやらねば誰が描く!?と思ってファンアートを描き始めた3月のころ、気がついたことがあった。自分の線画がものすごく汚いことだ。

なぜイラレなのか

 前から思っていたが、ちゃんとした線画を描くためにはかなりの回数消して書き直す必要がある。

1997年1月5日とかいうタイムスタンプがついたビットマップ画像をGIFにしたもの

 これは私が97年にペイントで描いたポケモンの絵だが、線画が汚いっていうのはこういうことだ。発掘された他の絵と比べて明らかに線画が汚いので、時間切れで途中やめになっているのかもしれない。

 3月頃に描いた絵はこんな感じで、清書するのも気が引けるほど本当に汚かった。最初はどんな絵でも汚いもんだ。それは分かる。しかし、1枚の絵にたくさん人物を描かなければならないマンガの形式となると、線画をきれいにするためにはホンマに手首に負担がかかることが分かってきた。

 手首は大切だ。仕事にも差し障るかもしれない。中学生の頃にタイピング練習で初めて腱鞘炎になって以来、人生の節目節目でこの手首の痛みというやつに悩まされてきた。しかし、休んでいるわけにはいかない。それっくらいのパッションがみなぎっていたので、もうこのビッグウェーブに乗ってアイデアを全部絵にするしかない!そのためには、効率よく省エネルギーな作業をする必要に迫られたわけだ。

 手首サポーターを装着し、定期的にストレッチしてアイシングする等、大型連休中には毎日絵を描くためにできる限りのことをした。そして、連休に入る前に気がついた。ペンタブでイラレで描くことが、私にとって一番効率が良いのではないかと。

イラレのここがいい!

 イラレで絵を描いてみて、感動したポイントを思いついた順に書いていこうと思う。

バンドTとかを勝手に描きこむのがでーれー楽しい

消しゴムをかける必要がない

 まずはこれ。フォトショなら選択範囲を作って消去なり消しゴムツールを使うなり何なりするが、イラレなら書き直しは鉛筆ツールだけでできる。これが衝撃だった。

 なんせ、アクティブにした線の上から鉛筆ツールでなぞるだけで、パスの形が変わるのである。オープンパスだけではなく、クローズドパスもいける。何でも鉛筆ツールで書き直しができる。Deleteキーを押す手間すらかからずに、新しい線が生成されるともいえる。

 ありえねえ。こんな便利機能がついていたのに、今まで気がついていなかったのか…!?と感銘を受けるレベルだった。これは絵を描く行為において、ズルしてることになるのではないか。いや、天下のイラレ様の機能なので、きっとズルではない…。そういうことも考えるレベルだった。

 そもそもベクトル画像は、マウスだけでもポチポチしていけば描けてしまう。ポチポチしていけば描けるのは、省エネである。なんせ自分で手を動かして線を引かなくても良いのだから、緊張感が低い状態で絵を描ける。しかも消すときはDeleteキーを押すだけで良い。

 マウスを持つ時地味に手首に負担がかかるので、これをペンタブで作業してみたら、いい具合なことは数年前から知っていた。ペンタブのファンクションキーと合わせたらもう、イラレ以外あり得ねえな…?と思えるくらいにエネルギー効率が上がったのだ。これは感動した。描き直しをする度に発生する線画の消し忘れのゴミがほぼ無くなったのは、本当に画期的だ。筆圧とかどうでもええねん!と思っていた私にとっては、画期的な発見だった。

塗りブラシツールとかいう強キャラ

 塗りブラシツール。これはブラシツールで線画を描いたあとにパスのアウトライン化をする作業を省いてくれるだけじゃなくて、なんかパスの合体とかも勝手にやるやべーやつであった。

 イラレで絵を描く際に問題にだと思っていたのが、感覚的にざっくり塗れないことだった。影をつける作業なんかが、特に面倒だ。シャシャシャ〜って塗ってあとからちょっとずつ直す!ってことをしたいわけだが、ポチポチするしかないと思っていた頃の私に一番教えたい機能である。

 とにかく、フォトショのブラシみたいに塗って、クローズドパスが作れるっていうのが強い。テキトーに塗ったら、その後は鉛筆ツールで境界線をなぞって適当に形を整え、あとは選択ツールでポチポチする。こうすることで、すごい速さで色を塗れるわけだ。しかも感覚的に!

遠近グリッドでつよつよパースが描ける

 無用の長物として、消し方をググったことしか無かった遠近グリッド。しかし、使ってみたらまあハマった。遠近グリッド表示中は長方形ツールとかで描画すると、自動的に形が歪んでいくのである。こんなん楽しくないはずが無かった。ペンタブのファンクションキーに遠近グリッドのオンオフができるボタンを作ったら、もう本当に捗った。

最初に形になったWMのファンアートが、RGOのヤマ

 このように、遠近グリッドが楽しくて倉庫の絵を描いてしまうレベルだった。

 最近はもう下絵から全部イラレで作業しているが、人物しか描かないつもりでも、アイレベルを意識するためにとりあえず遠近グリッドの設定から始めるようになった。これは、メッチャええわ…。

ファイルサイズがあまりにも小さい

 そして、おまけ的なこの現象である。 

 イラレの勉強を初めて最初に面食らったのが、1つのレイヤーの中に大量のパスが生み出されることだった。レイヤーを展開したら、線の断片がたくさん表示されて、スクロールするのが大変だったりする。それはある。しかし、レイヤーの中のパスの洪水とは裏腹に、ベクトルだけのファイルサイズはあまりにも小さい。これもまた省エネポイントである。

 フォトショ形式の画像のファイルサイズは、でかい。数10MBとかになる。たくさん絵を描くと、ハードディスクの中でかさばる。そういうことはいつも考えていた。そうしたらこの、イラレ形式のファイルのサイズの小ささ…!下絵をフォトショで描いてイラレで清書していた時の絵で比べたら、下絵が4メガバイトで完成した絵が400キロバイトとか書かれているではないか。単位が違う…だと…?

最近イラレで描いた絵は全部1MB以下のサイズだった

 これには目を疑った。400KBなら、フロッピーディスクにも余裕で収まるではないか。イラレデータ的には、カンバスサイズはA3とかなのにだ。フォトショでA3に印刷できるサイズの絵を描いたら何MBになるのか、考えて気が遠くなった。ちなみにあのペイントで描いたビットマップ画像は、平均2MBくらいのサイズだった。

 ファイルサイズが小さければ、メモリにも負担がかかるおそれが少ない。知らんけど。そして、クラウド上に保存する際にもかさばらない。それは確実だ。

 画像を配置したりするとまあそれなりにファイルサイズは大きくなるが、ベクトルだけで話が済むのなら、落書きもイラレでやったほうが良いのではないか…。そうは思った。

後から手を入れるときに強い

 ベクトルは拡大縮小に強い。それはつまり、完成した後からでも修正しやすいってことである。顔面の中で目が占める割合とかを、後からでも修正しやすいのだ。頭と肩幅のサイズの調整なんかも、当然しやすい。

 湾岸ミッドナイト原作って肩幅にかなり無頓着な絵柄ですよねって話はある。しかしまあ、例えばセガールは一般人と比較して素で肩幅がクソデカいし、90年代前半に流行したスーツは肩幅やたら広く見えるし、そういうのを描きたい時とかは、役立ちますけえの!!!!と力強く思った。

 そして前にも書いたことだが、色の変更にも強い。ボタン1発で色をまとめて変更できるのが強い。今回は、スニーカーの色のパターンを色々試したい時なんかに役に立った。フォトショで描く時はこうはいかない。色を変えたら良くなった〜とか思っていても、選択範囲のキワがガサガサになっているのを見ると凹む。そういうことはイラレでは起こらない。

 後から変更しようと思えばいつでもできる!という、一種の心理的安全性が背中を押してくれる感じがする。セグメントをポチポチしてたら、そのうち思った通りのいい形になるよ!と応援してくれているような気になってしまう。昔のイラレの起動画面にいたボッティチェッリのビーナスの幻覚が、そう囁いている…?いや、昔のAcrobatの起動画面にいた、軽やかに跳躍するビジネスパーソンかもしれない。それくらい仕事が捗る!っていう実感がすごかった。

archive.org

 とはいえ、手短に描ける絵柄なのでそのうち飽きるんだろうという気はしている。絵柄このままでええの〜?ホンマに〜?と思っている。アニメ塗り以外やる気がしないのでこのままでええの!と念じているが、イラレで描ける絵にも限界があるからなー。

 ところであの小学生の頃にペイントで描いた絵を見つけたときの話だが、己の最近のイラストとテイストが変わっていないことに気が付いて、まあまあショックを受けた。これとか特にそう思える。

ビットマップ画像を発見した当時描いていた絵、「アフリカン・カンフー・ナチス」のファンアート

 そういうこともあって、あんな絵はもうやめだ!と思ってイラレで描き始めた。しかし、これはこれで悪くないんだよな。間の抜けた感じがして、嫌いじゃない。

近況報告

 そんなわけで、大型連休中はちょっとハッスルしすぎて頭がおかしくなった自覚はあるので、今後は地に足をつけるイメトレをしながらほどほどに作業したいと思った。イラレより付き合いが長いはずのフォトショ様を貶すような記事になってしまって、すみません。映画の記事も書いてるので、近日中に公開したいと思っています。

 で、肝心なファンアートのちゃんとした画像は、微調整という名のアレコレが済んだらまとめてpixivに投稿するので、気長に待ってやってください…。

投稿しました

 去る6月1日、ピクシブに投稿して参りました。マイペースに自分の妄想に向き合って作った、ほぼ自分用の2次創作でございます。ネタがまだあるので、次回作は体力と相談しながら作っていく所存です。

www.pixiv.net

岡山市内のTRPGコンベンション立卓状況2021年版

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ファイナルガールを遊んでいる写真

 岡山市内の主要4サークルの開催状況です。今年も最初から最後まで新型コロナウイルス感染拡大の影響をモロに受けた状態で始まっており、来年どうなるかの見通しもなかなか立たない状態になっております。

サークル名(敬称略) 立卓状況 備考
1月
OGA エネカデット
ソード・ワールド2.5
青灰のスカウト~シャレ・シェレギの物語~
ほかにボードゲーム卓あり
ろーどないつ アドバンスト・ファイティング・ファンタジー第2版
パスファインダーRPG
 
2月
OGA シノビガミ
クトゥルフ神話TRPG
ソード・ワールド2.5
ほかにボードゲーム卓あり
ろーどないつ この素晴らしい世界に祝福を!TRPG
サタスペ
ソード・ワールド2.5
 
3月
OGA ソード・ワールド2.5
鵺鑑
フタリソウサ
ほかにボードゲーム卓あり
ろーどないつ ダブルクロス The 3rd Edition
パスファインダーRPG
 ほかにボードゲーム卓あり
4月
OGA スクリームハイスクール
プロズ&コンズ
メタリックガーディアンRPG
ほかにボードゲーム卓あり
ろーどないつ シュラファンタジーTRPG
クトゥルフ神話TRPG
 
5月
全ての例会が中止
6月
全ての例会が中止
7月
OGA Cyberpunk Red ほかにボードゲーム卓あり
8月
OGA ザ・ループTRPG
ソード・ワールド2.5
ほかにボードゲーム卓あり
9月
全ての例会が中止
10月
OGA ソード・ワールド2.5 ほかにボードゲーム卓あり
11月
OGA マージナルヒーローズRPG
我らが王の身罷りて
ほかにボードゲーム卓あり
12月
OGA ソード・ワールド2.5
ファイナルガール
ほかにボードゲーム卓あり

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』推しが空中殺法をキメた日

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つい描いてしまったファンアート

 今回の記事は一応ネタバレに配慮していて、ほとんどの内容はふわっとした感想と個人の体験談だ。後半にある警告文以下からは原作上巻と映画のネタバレが多少あるが、原作の中~下巻の内容には触れていない。

はじめに

 閃ハサが好きすぎて、正直言って狂っていた。

 閃ハサがきっかけでガンオタになってから早20年。推しが映画で初主演して世間が妙に盛り上がった記念に、ファンとして何かブログに記事を上げておきたい。そうは思った。しかし、好きすぎるゆえの問題にぶち当たった。

 私はここ数年の間で映画鑑賞にハマり、まあまあハイペースで映画を見続ける生活を続けていた。その中で作品に対するクソデカ感情をブログに書き出し、自分で読み返した時に面白がれる程度の文章にする力はついてきたと思っていた。しかし閃ハサ映画については、興奮しすぎて文章を書ける精神状態ではなくなっており、色々無理だった。

 この感動をなんとか文字にしなければならない。推しに狂ってのたうち回った記録を今残しておかなければ、後で読み返すこともできずに苦しみ損ではないか。書き出したらこの熱狂の正体が理解できるかもしれないのに、語彙力が…表現力が死んでいる!いや違ぇんだ!今は文字書いてる場合じゃねえ!!とか思いながらひたすら混乱していた。

 そんな調子で6月頃は本当に何も言葉にならず、SNS上で見かけたこの映画の感想に自分の気持ちを説明してもらった気持ちになるだけの日が続いた。しかしあるシーンがきっかけで、やっと自分の言葉で感想を言えるようになった。

推しが空中殺法をキメた日

 で、何がきっかけで言葉を取り戻したのか。そのシーンは冒頭15分以内にあるので、この公式動画の12:45くらいから見れる。

 まあ見ていってくださいよ冒頭から!お願いします!


www.youtube.com

 おわかり頂けただろうか…!?

  いや私も、最初に見たときは気が付かなかった。えっ、何かすごいことしてない?とは思ったが、次々と見せ場がある映画なので忘れてしまったからだ。後日見つけた海外のガンオタのツイートで、私はこのシーンを思い出してびっくりした。ハサウェイがすごいプロレス技キメてたじゃねーか!!!…と。

 海外のガンオタ、いやむしろプロレスオタクいわく、これは腕固めリバースDDT(デスティーノ)という技だと。新日時代の中邑真輔かよ!と興奮気味に紹介してくださっていた。イヤァオ!!

 いやー、すごいわ。こんなのメジャー団体の上手いレスラーでもなきゃ、とっさにできない技じゃないですか?しかも路上で!銃を持った相手に!技をかけた方もダメージを受けてるはずだし、後先考えてねぇ感がすごいじゃない。
 原作にこんなシーンあった!?それが、水平方向に回転するタイプのプロレス技になるとはね!!!?新規作画でアムロの巴投げが鮮やかに蘇ったと思ったら、それとは回転軸が違うワザをキメるとは!!!いや〜映画化ってすごいなぁ!想像を絶する解釈やわ!

 私はさらに混乱した。あまりにも丁寧に作られたこの映画について、この時まではエモいとかバエるとかサントラが良いとか、そんな当たり前の感想を一言くらいしか言えずにいたからだ。

 しかし、しかしである。このプロレス技について、公式との解釈違いをちょっとだけ感じた結果、堰を切ったように言葉が溢れてくることにびっくりした。私が食いつくのは、結局こういう部分なんじゃねーか!と。そう思って、笑ってしまった。そして、無性にプロレスを見たくなった。

 推しが腕固めリバースDDTをキメたから、今日は空中殺法記念日。今回はそういうノリで、この作品の何がそんなに魅力的なのか、自分で理解するために書いた記事である。なお記事タイトルは「推しが空中殺法をキメた日」としたが、コーナーやロープの上から跳んではいないので厳密には空中殺法じゃなくね?とは思ったんだけど、まあ空中戦してるし良いか…と思ってそのままにした。

第一印象

 まずは映画の第一印象の話から始めよう。開始10秒以内に松竹のロゴが出てくるが、この時の音だけで普通じゃない映画の始まりを予感し、多分これは私の好きなヤツだ!と確信した。そして本編は想像の10倍くらい良くて、憂き世の全てを忘れた。

 「半端な映画化を見せられたら憤死するかもしれん、でもGジェネペーネロペーとハサウェイとあとレーンにも世話になった義理があるからと思って、決死の覚悟で見に行ったってのに…!」とか当時ツイートしているが、閃ハサの映画化が発表された2018年当時から公開までの間は、この映画化の話は忘れよう!と思うことで精神を安定させていたくらい怖かった。

 予告も冒頭15分動画も全く見ていなかった状態からあのクオリティの映像を見せられたら、まともな感想が書けなくなるくらい感動してしまうのは納得だ。そしてその感動を自分の言葉にできなかったと。

 ストーリー以外の良かったと思えた演出をふわっと書き出すと、こんな感じになる。とはいえこんな話はみんな言ってることなので、この箇条書きのセクションは読み飛ばしてもらっても全然大丈夫だ。

  • 海外旅行に行ってきたような気持ちになった。
    とりあえずこの飛行機、空港、ホテル、植物園、土産物屋という流れから旅行に行ってきたような気持になれた。『太陽がいっぱい』を見て、イタリア旅行に行ってきたような錯覚を覚えたあの気持ち。これはまさしく、滅多にない良い観光ムービー!飛行機はハイジャックされるしホテルは…なんだけど。
  • 1シーン辺りの功夫がすごい。
    めっちゃ動いてるし、キャラクターの所作へのこだわりもすごい。私はC級映画を色々見続けてしまったせいで、ジャンルや製作年代にかかわらず1シーンあたりにかけられた映像のコストを気にするようになってしまった。その点今回の映画は、最初から最後まで手間と技術とこだわりに圧倒され続けることができる。なんてハイカロリーなんだ!
  • 劇伴が超いい。
    ここで?というタイミングで気分がアガる曲が流れていて、初見ではそのアンバランスな感覚がとても新鮮だった。使い方が上手だし、曲自体も良い。すぐサントラを買ってヘビロテした。
  • ギギの魔性の表現方法。
    青い瞳のハイライトにオレンジ色が入っていて、こんな色をした目、見たことない…!という驚きから目をガン見してしまう。ツイッターでは「勃起した」という感想がバズっていたが、ただエロいだけではなくて、普通じゃないオーラの表現力がすごいと思った。
  • 原作の再現度が高い。
    原作本を何度か読んで脳内にインストールしたぶんは確実に再現されていて、違和感が全くなかった。あらためて読み返してみたら細かいところは違ってたりするんだけど、エッセンスが確実に再現されている。愛がある!

 ああ、これがデカ・バジェ・ムービー*1…!私は幸福なアトモスフィアに包まれ、すごいものを見てしまった!とひたすら感動した。義理で見に行ったつもりが、熱狂して帰ってくることになるとは完全に予想外だったのだ。札ビンタを浴びただけでも全然満足度が高くて、さらに原作の再現度も良いとくれば、もう昔ハマった当時の熱量を思い出して安心しきってしまった。

 しかし、その熱狂によって私は「これからが地獄だぞ」な展開に入っていく。

生活への影響

 私はこのコロナ禍の色々の影響から、心身の不調を自覚することが多くなっていた。そんな時に降って湧いたこの閃ハサフィーバーが、弱った精神を更にゲボゲボにふやかし、判断力と現実感を低下させていった。

 特に怖かったのは、今まで通り映画を見ていたら、途中で急に「やっぱ閃ハサのほうが良くね?」と思いつくような状態がけっこう長く続いたことだ。この文章を書き始めた9月頭の時点でも、そんな状態になっていた。これには映画オタクとして危機感を抱かざるを得なかった。

 で、友達と週イチくらいのペースで開催している遠隔同時映画上映会で『ハーモニー』を見たとき、特に深刻なインシデントが発生した。

 この映画には、ヒロイン(?)の御冷ミァハ役で上田麗奈が出演している。つまり、ギギの声で「言葉で人を殺すことができる」とか「私と一緒に、死ぬ気ある?」なんて言われるんだ。


www.youtube.com

 サイバーパンク世界で闇堕ちしたギギがいる。そうとしか考えられなくなり、もはや私は正気を維持できなかった。その世界観に圧倒されながら最後まで見たあと、「すごく良かった!」の二言目に「ほぼ閃ハサだった…」とか言ってしまい、伊藤計劃ファンの友達からドン引きされたわけである。その節は本当に申し訳ありませんでした!!*2

movie-tsutaya.tsite.jp

 映画を見ながら集中力が切れた瞬間を自覚できるって意味でも、とても我慢できない。映画以外にしても、それはそれ、これはこれで作品を楽しむことができなくなるのはマズい。そして次第に森羅万象のすべてが閃ハサに関係あるかのような錯覚をするようになり、自分が完全におかしくなっていると分かってきた。*3

 こんなことが数ヶ月続くと、お察しのように閃ハサフィーバーそのものの負荷によって、メンタルの具合が悪くなった。好きすぎて生きてるのが辛い。疲労困憊した限界オタクのテンプレを、実感する時がついに来てしまったのだ。自分の{好き}という感情が暴走していて、全く手がつけられない状態。その{好き}の正体が掴めない感覚も怖かった。

 テレワークで座学のOFF-JTをしている時が、特に苦しかった。推しの顔を見たい。そう思い始めたら勉強が全く手につかなくなり、次第に推しが原因で「神経が苛立つ」としか言えない状態になっていったのだ。

 それは自分の不甲斐なさへの怒りであり、決して推しが悪いわけではない。だが可愛さ余って憎さ百倍という他ない感覚ではあった。

 何というか、推しはシャブ

 ストレスが限界~~~~~!!!もう閃ハサ見に行くしかねぇ~~~~~!という思考になって映画館に救いを求めた結果、91分後には満面の笑みでイオンシネマ岡山を後にするような体験を何度かしてしまうと、実感として推しはシャブという言葉に集約された。

 感染第5波がなんだ、緊急事態宣言がなんだ、わしの脳が緊急事態なんだから不要不急じゃない!!なにはともあれ今日も推しがかわいい…とか言っていた。このご時世、推し活も命がけである。

 円盤を買うことができなかったため、映画の上映終了後には例によって禁断症状に苦しんだ。しかし円盤を買えていたとしたら、それはそれで別の苦しみかたをしたに違いない。過去記事に書いたこれみたいに、多分プレイヤーから円盤を出せなくなったりしただろう。自分のことじゃけん、だいたい分かるんよなぁ。

 今まで私はガンダムという巨大で流れの速い沼の中でも、比較的動きが少ない場所に浸かってのんびりできていたと言える。というか、新しい流れを追うのをやめていた。

 しかしこの突然の映画化のせいで、激流にのまれて今まさに溺死しかけている。戦場の外で舐めプ発言をしていたら、最前線に派遣されて地獄を見た『フルメタル・ジャケット』のジョーカー君みたいな状態だ。

ガンダムにハマった頃のこと

 この頃は多分、公式からの供給が多すぎて脳があっぷあっぷしていたんだろうな…と11月になった今なら分かる。しかし切羽詰まっていた当時の私は、20年前の状況から考えなおすことにした。

沼の入り口

 令和3年には閃ハサが初ガンダムになる人もいるんだって。すっげぇ!信じられねぇ!異常事態だ〜とか思っていたんだけど、実は私も閃ハサが初ガンダムだったことを思い出した。2001年のことだ。

 閃ハサの映画化が決まった2018年以降、私がツイッターでフォローしている先輩ガンオタ達数人から「原作を読んだのは20年前だからもう内容は忘れた」という話が聞こえてきた。原作本の上巻が発売されたのは30年前の平成元年(1989)だが、2000年頃に本を読んだらしいということだ。先輩方の記憶違いの可能性もあるが、これは多分私と同じで、閃ハサが初参戦したゲーム「SDガンダム GジェネレーションF」(2000)で作品を知って読んだ人が多いのだろう。

 当時はガンダムについてnot soミリしら状態だった弟は、このGジェネFが面白いらしいと友達から聞いて、ゲームからガンダム沼に入った。こういう、面白いらしいとジャンル外から噂になることが、布教するために大事なんだな~と今回の映画のヒットを見ていても思う。

 このゲームの分厚い攻略本は居間に置きっぱなしだったので、私も暇つぶしに掲載されている作品のタイトルや、登場するユニットの絵を見ていた。私は90年代にはカヲル君推しのエヴァオタ小学生だったので、巨大ロボットには抵抗が無かった。ガンダムってあのチャイナ服のおじいちゃんが出てくるやつじゃろ?と微妙に間違った認識を持ってはいたが、ポジティブな興味があったらしいと当時の記録にある。

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2011年撮影。GジェネFではなく、Gジェネスピリッツの記念写真。下から2番目のペーネロペーに乗せられているのがハサウェイ(CCAのすがた)で、上から2番目の命中率が鉄仮面の次に低いのがレーン

 GジェネFの攻略本*4は、実質的に2000年までのガンダム作品のカタログだ。その中から、「閃光のハサウェイ」っていうキラキラしたタイトルに興味を持つのは不思議なことではないと思う。気になった作品のタイトルとストーリーの印象を弟に聞いていくうちに、この閃ハサという作品は、タイトルとは裏腹な闇を抱えていることを知った。

 弟は閃ハサのあらすじをざっくり説明してくれた。主人公はテロリストで、……だと。

 この、一言でインパクト抜群のあらすじよ。私はその斬新すぎるネタバレを聞いて、もう絶対履修しようと心に決めた。まず逆シャアを見て予習をして、満を持して原作本3冊セットを買って読み、そのままずぶずぶとガンダム沼に入っていった。最低限の予習はしているあたりに、閃ハサの闇に対する期待の大きさを感じる。

悪役主人公ブーム

 気になるのは、なぜ私はあのあらすじだけで閃ハサに異様な関心を示したのかだ。

 そこで私がこの時期に履修中だった本とか映画を調べてみたところ、当時の私はシリアルキラーブームの真っ最中で悪役主人公フィーバーしていたことがすぐ分かった。

 『アメリカン・サイコ』(2000)、『羊たちの沈黙』(1991)、その続編の『ハンニバル』(2001)といったシリアルキラーものの小説や映画。それから『スター・ウォーズ エピソードⅡ クローンの攻撃』(2002)もこの時期なので、アナキン・スカイウォーカーが暗黒面に落ちる手前の様子を見て、エモいエモいと思ったりしていた。

 当時書き残した感想を読むと、板についた悪役感という言葉で閃ハサの魅力を語ることが多かったことがわかる。ハサウェイがマフティー・ナビーユ・エリンとして苛烈な言葉を発する度に、もう後戻りできない位置まで悪堕ちしとるわ〜と思うことができるのが良いと。これ、Gジェネの戦闘シーンで主人公とは思えない台詞を発して異彩を放っていた印象が強いんだろうな。

 ジェスチャーだけで相手の首を絞めるダース・ベイダーの得意技的なあれ、界隈の用語ではフォースグリップ*5っていうんだけど、スターウォーズのアニメ『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』で、アナキンが捕虜を尋問するのにフォースグリップをやってしまうシーンがある。そのシーンを見たときの、ウヒョー!!待ってました!とか言いながらガッツポーズをしてしまうあの感じ。あれに似ている。悪役主人公にも色々なタイプがいるけども、閃ハサを鑑賞して得られるバッダスな喜びはこの辺のキャラと共通していると思っている。

  ところで私は最近某シリアルキラードラマを見ながらつい正気に返ってしまい、どうしてこの街ではこんな悪逆無道犯罪者が次々に湧いてくるんじゃ…!死体アートの出来と動機と捕まるまでのエピソードを競いあう犯罪コンテストみたいなのが開催されとるとでもいうんか…!?と苦悩したことがある。

 だが要するに、犯罪の猟奇的さと犯人の狂気を好き好んで採点しているのは視聴者の私だったことに気づいた。倫理観のアウトさの限界を競うチキンレース。ヤバい!と思わせたら勝ちで、ないわ!と思わせたら負け。そういう競技が自分の審美眼の中核…つまり性癖になっているのではないか。

 上記のドラマはないわ〜過ぎて失格して、今は地雷認定している。そして2001年当時のレースで一番ヤバかったのが、たまたま閃ハサだったと。さらに世界観設定とかが倫理のチキンレース関係なく普通に好きだったため、私はその後他のガンダム作品も見始めたんだろう。

 シリアルキラーと勝負して勝てるガンダム。性癖というフィールドでなら互角に戦えたなんて、知らんかった。どうでもよいが今この記事を書きながら、10代のころに自分の性癖のポリシーみたいなものが完成してしまい、今も相変わらずそれを運用しながら生きてることを痛感した。

 まあなんかそんなかんじで、閃ハサは巨大ロボットアニメのガワを借りて別の性癖を猛烈にアピールしてくる。ここで不意を突かれてガンダム沼に落ちてしまう人間が居ても、全然おかしくないことは分かる。

 心の闇にフォーカスした作品を愛好しているタイプの人間がSFも好きだったりしたら、ストライクゾーンに入りうる。しかも、この主人公は過去の作品に脇役として度々登場しているため、過去のシリーズ作品を見るためのきっかけにもなり得る。個人の感想だけど、それが実感としてメッチャわかりすぎる。

 そういう側面だけ書き出すと、今回の映画化も公式サイドで意外とスムーズに話が進んだのかもしれないと思ってしまうが…正直何がどうなってこれの映画化が決まったのか、一度ガンオタになってから考え始めるとなかなか理解できないのだった。

 その後私はゼロ年代の中ごろに『ガンダム・センチネル』にドハマリしてしまい、興奮して周囲にセンチネルの話をしまくったりした。センチネルの好きなところは普通に説明できる。*6でも閃ハサについてはこれがドチャクソ性癖でした、ゲヘヘ…としか言いようがないため、あまり人前で推し作品はこれですと言ったことが無かった。映画がすごくよかったんですよ!と今年は言って回っているが、それ以前だと普通のオタク同士の雑談からガンダムの話題になったとき、閃ハサ推してます!という話はとてもできなかったんだよな…。

 

 ここから先は原作上巻と映画のネタバレが多少あります。

 

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2012年撮影。ゼロ年代の中ごろに発売されたΞガンダムのフィギュアは、プロポーションが主人公機っぽかった

 分かったような、分からなかったような気にはなった。

 ここまで書いてみて、世間ではキャラクターの人間関係が面白いと言われている作品なのに、そういうところに全く関心がないままだったことに気がついた。ツイッターで言われてて、今年初めてそういう見方に気がついたくらいだ。とにかくガンダムには多様な楽しみ方があることはよく分かったので、映画の具体的な感想の話に移りたい。

映画とその先の話

 閃ハサ映画が公開された頃に皆が意図的に避けていた真のネタバレって、実はこの映画が3部作の1本目であることだと思う。ドゥニ・ヴィルヌーヴの『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021)が2部作の1本目であることとかも、映画の冒頭まで内緒にされてるっぽいよな…!その騙してでも映画館で見てもらいたい気持ち、わかる。

ノローグの違和感

 今回の閃ハサ映画は、モノローグが印象的だ。モノローグの多さからデイヴィッド・リンチの『デューン/砂の惑星』(1984)みたいだと言っている感想を見かけたが、私も同じことを思った。いろんな人の心の声が多すぎる『デューン』ほどの違和感はないが、モノローグに引っかかる映画だと思える。

 ハサウェイのモノローグは、時々感情移入の限界を突破して理解不能な領域に入っていく。判断基準や価値観がどうしようもなく歪んでいて、こいつは主人公だけどラスボスでもあるんだよな〜と思わされる。推せるわ〜。

ハサウェイ「この事態を引き起こしたのは 僕の甘さなんだ アナハイムからの帰還にハサウェイ・ノアという名でハウンゼンを利用したのも 最後に閣僚たちの顔を見ておきたいというアイデアを諦められなかったからだ それが今みんなを危険にさらしている そうだねクェス それが君の答えなら 僕は代わるよ 変えてみせるよ マフティー・ナビーユ・エリンに」

 カーゴ・ピサのシーンのモノローグは初めて見たとき、とても気味が悪かった。ファンとしてこんなことを書くと誤解されそうで遺憾なんじゃが、やっぱり何回見ても気味が悪いと思える。これ以上感情移入しなくていいですと、本人から突っぱねられたような気持ちになれて、dopeでillな良さがある。ここはマイナスの感情が得られる加点ポイントなんだよ!!こんなシーンが映画で新しく追加されてしまうと、マフティーのやりかたには賛同できんけど軍資金だけ貢がせてくれなどと喜びのあまり叫びそうになる。

 映画では幻覚幻聴シーンが強化され、より内面に迫っている感じがする。とりあえずハサウェイは歪んでいて狂気が輝いている。その解釈は正しくて良い。しかし、モノローグの存在自体に妙な違和感がある場面は多い気がした。

 モノローグが多いのは原作をリスペクトしてる証拠なんだけど、もっと削っても良かったんじゃないかとは思った。ヴィルヌーヴ版の『DUNE』を見たら、モノローグをここまで削っても演出を工夫すれば普通の映画になるんじゃん!!と軽率に思えてしまったからだ…。*7

 今回の閃ハサ映画は後半になるにつれて場面の洗練された感じが無くなっていって、ちょっと散漫になっている気もする。小説から映画になりきれていない側面はあるのかもしれなくて、そこは残念だと感じてしまう。

 でもな、そんなことを言えてしまうのは本編を見ていない間だけでな、ブルーレイを見はじめると映像の圧倒的なパワーにねじ伏せられて感動してしまうんよ。もう私にはこの映画をどうこう論評できるような正気が残っとらんのだわ!…そんな無力感を覚えたりしたが、せっかくなのでこの段落も消さずに残しておく。

しんどみエンジンのギアチェンジ

 閃ハサ原作本を読み始めた時に想定外だった要素がある。読んでてしんどくなるってことだ。結末を聞いただけでは、これほどとは想像がつかなかった。本当だ。

 マフティー・エリンがぽっと出のキャラクターならそれで終わりなんだけど、成れの果ての姿であることを強制的に分からせてくれたのが2部の仮タイトルだった。

 言葉で人を殺すことができる!たった8文字なのにこの破壊力!さすが公式はよく分かっておられる!ブライトさんのことは考えないようにしてたのに〜!とフィクションのしんどみを感じすぎて、泣き寝入りができそうなネーミングだ。そして2部はこうなるんじゃないかという予想をツイッターで見かけて、しんどいどころではない恐怖を感じた。

 閃ハサ原作が発表されてから約30年の間に、新しいガンダム作品が色々と作られた。そして新しい設定も生えてきたらしい。その辺を今度の映画に取り入れることによって、しんどみのギアが数段上がってくると想像がついてしまうのだ。

 車はもう走り出している。しんどみエンジンのギアをこのまま上げ続けていったら、トップギアで目的地に正面衝突するだろう。しかも今後、助手席の下からニトロ加速装置のボンベが出てくるかのごときサプライズで、しんどみがアクセラレーションするかもしれん。もうわしは助からねぇ!!ここに救急病院を建てよう!!元々はこんなしんどさを感じるために読み始めたわけじゃなかったのにー!つれぇ!つれぇよ〜!倫理のチキンレースでギリギリを攻めるというより、もう絶対にお前の情緒を破壊して軽くトラウマにしてやるぞと宣言された気になってまう!それでもそんな続編が、とっても楽しみなんだ…!

 そしたらそんなしんどみとは無関係にインターネットミームとして大流行したり、公式が謎コラボを始めたりして、何が何だかわからなくなった。同じガンダム沼の住人から後ろ指さされるような作品だと思ってひそかに愛好していたら突如映画化されて、打首獄門だけだった推しの量刑に市中引き回しが追加されたような気分だ!どうしてこうなった~!でも好き~~~!!!

おわりに

 閃ハサの魅力はしんどさとは別のところにあるはずだったんだけど、こういうストーリーだからしんどさまで含めて好きって認識になっていくのか。つれぇ。性癖がねじ曲げられて思考と感情をハックされてる気がしてきた。ああ~!今、半泣き状態でこの文章を書いているんだけど、これでだいたい自分の中で結論が出たと思えたので、思い出話をして終わろう。

 中学生のころ、わし閃ハサ好きなんや…とエリートガンオタの同級生・Yちゃんにカミングアウトした。

 後日Yちゃんはにやにやしながら、カセットテープを貸してくれた。まあ聞いてみ…とだけ言いながら。

 そのカセットに入っていた謎のコンテンツ『こちらマッケンジー探偵社』が、YouTubeSpotifyで配信されていたことを今年知った。


www.youtube.com

 久しぶりに聞いてみたら、これが公式から供給されることの意味を考えすぎてメンタルの具合が一層わるくなった。多分、深い意味は無いんだろう。しんどい時には2次創作しろっていうけど、公式からこういうのをお出しされると、もう感情が…わやになるんですわ。おえん、おえんでこんなん。

 『ラ・ラ・ランド』で予習してから『ブレードランナー2049』を見た時みたいなパラレルワールドのしんどさを感じて、とてもつれぇ。中学生の頃は深く考えずに楽しめたけど、きっと今の私はYちゃんの思惑どおりのリアクションをしているんだと思う。このしんどみに癒やされて、楽になりてぇ。

*1:バジェット(予算)がデカい映画

*2:同じproject itohで村瀬修功監督の過去作品ということで、『虐殺器官』も見たんだけど、これは個人的にはハイジャック犯のピエロが撃たれるシーンの延長線上にある映画って感じだった。『スターシップ・トゥルーパーズ』を見てエキサイトしてる私みたいなタイプの映画オタクなら、見といて損はない殺戮名場面が多かったと思う。

*3:たとえば運転中に国道の黄色いセンターラインを見て、これは推しカラーなのでは…?と思ってしまう。BSで放送された『ネバーエンディング・ストーリー』(1984)を録画したが、アバンタイトルで子役の名前が出た瞬間に発狂しそうな予感がして怖くなり、結局見ないまま消す。プ■レスリング・ノアという名前を聞いた瞬間にあのシーンが思い浮かんでしまい、もうこの団体の試合見れない…!と思って絶望する等、色々なことがあった。

*4:Ξガンダムを生産するために、ゲーム開始時点の戦力でも頑張って閃ハサのステージを最初に攻略した方が良い的なことまで、攻略本には書いてあったような気がする。序盤のステージに投入するには強すぎるこのゲームバランス破壊パワーを得るために、あのストーリーを心を無にして一番に攻略しろってことだ。得られる力に対して、必要なメンタルの代償がだいぶデカいのではないか。この攻略法を思いついたヤツ、誰か知らんけどなかなか人の心がなくて良いな。

*5:Force choke | Wookieepedia | Fandom

*6:センチネルが好きですって飲み会で周囲に言いまくった結果がこの記事だ。嬉しすぎて、文章のテンションがあまりにも高い。

daitokaiokayama.hatenablog.com

*7:リンチ版は色々無理をしているので仕方ないんだけど、画面の映えが素晴らしいのでこれはこれで好きです!

「待ち人来たる」シナリオを公開しました

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この二人の人物は一体…!?という画像(実は誰でもない)

公開しました。

www.pixiv.net


 モノトーンミュージアムのシナリオを公開した。

 内容はもう、堂々たるコメディである。ハンドアウトからしてベッタベタなやつである。

 このシナリオはOGA春季大会が開かれるかもしれない、いや開かれないだろうな…とか考えながら、それでもワシは何か目標に向かって突っ走るべきだ!と思って仕上げた。という報告をすっかり忘れていた。

経緯

 このシナリオを書き始めた3月頃はとてもメンタルが不安定で、少しでもメンタルを安定させるためにはなるべくネットを見ないようにする必要があった。特にtwitterだ。

 SNSは恐ろしい。当時の私は、世界の全ての要素から不安を感じていたとしか言いようがない状態だった。とにかく外界からの刺激を減らしつつ、社会人として最低限の仕事だけはしなければならなかった。そんなわけで、当時の私はいわゆるネットの言説から離れる必要があった。

 twitterばかりではない。mixiニュースのコメント欄とかも危険だと認識していた。しかし、休憩時間になると暇つぶしについスマホを触り、アプリを開いてネットを見てしまう。これじゃあダメだ!!死んでしまう!

 そんな時、シナリオを書けば良いじゃない!と私は気がついた。スマホを触った時、SNSではなく、OneNoteを開く動機を作れば良いじゃない!…と。

 

 例年ならば、大会用のシナリオの準備は半年から3ヶ月前から始めるじゃないか。3月なら、もう春大会の準備を始めてしかるべき時期だぞ。一旦準備を始めれば、仕事中の隙間時間なんかを総動員してシナリオのことを考えるようになるはずだ。毎回そうなってるから今回もそうなるはず。いや、意図的にそうしていこう。

 これはもう…大会があっても無くても、自分のために書くべきだ!!そういえば2018年に1回回したきりで、清書してないシナリオがある。あれをブラッシュアップして公開することを目標にしよう!公開が目標なら、大会が中止になってもモチベーションが下がらないぞ。ヨッシャ!イケる!いやもう行くしかねえ!!

 

 そういう切羽詰った事情があり、シナリオの準備を始めてからはや3ヶ月。メンタルはまあまあ落ち着き、主に閃ハサの感想を見るためといって、twitterを楽しく使えるようになってきた。これが、本来の楽しかったSNSなのか。とかそんなことを考えている。

 mixiニュースのコメント欄は…ニュースのページからは見えないようにしてほしいなって思ってる。

コメディです

 で、シナリオ本体について。

 一度は栄華をきわめたかに思えた主人公が、どん底を経験する。そして面白おかしくいばらの道を歩かされた後、望んだようなハッピーエンドを達成する。そういうことを目標にした。

 それはまさに、チャウ・シンチー映画のテンプレだ。最初にどや顔で誇らしく登場するあたりは『食神』と『少林サッカー』に近いと思う。『喜劇王』も好きやで!

 この間このシナリオを野良で回したところ、参加者の皆様にはそれなりに楽しんでもらえて嬉しかった。敵データは「芸術点高い」と言ってもらえたので、多分クライマックスフェイズも盛り上がります。

『スターファイター 未亡人製造機と呼ばれたF-104』その恐るべきしんどさ

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ハリーとベッティ。つい描いてしまった挿絵

今回の記事について 

 『スターファイター 未亡人製造機と呼ばれたF-104』(2015)という、ドイツで作られた映画がある。正確には、2時間ドラマとかテレビ映画的なものらしい。

 書いてある言葉から全ての内容を察することができる、すごい邦題だと思う。Starfighter – Sie wollten den Himmel erobernという原題は、直訳すると「スターファイター あなたは空を征服できなかった」になるらしい。しかしこのamazonのダサいサムネ画像…どうにかならなかったのか…。

 私はこの映画を見たが、あまりにも感情がぐちゃぐちゃになって考えが整理できなかったため、今回は特別に記事を会話形式にしてみた。会話形式にするためには、会話させるためのキャラクターが必要だ。というわけで妖精を召喚した。まずはヤツらのことを知ってくれ。

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今回はこいつらが映画を紹介するよ。よろしくね!

 ここまでしてでも、この映画の訴える力を知ってもらいたい。今回はそんな意図の記事である。なんせこの映画を見たのは、去年の今頃だからな。記事の準備に1年もかかってしまったのは、今回が初めてだぜ!

 ちなみにこの映画は、歴史を基にしたフィクションである。邦題の付け方からしてもうネタバレと言っても過言ではないだろう。それってつまり、この記事にネタバレらしい要素は無いじゃろ!と私は考えている。いやいやいや、そうでもないでしょ!?と思った人は、この辺りで読むのをやめた方が良いです。

会話開始!

トマちゃん

ウマちゃん、F-104が好きなんでしょ。

ウマちゃん

急にどうしたのトマちゃん。確かにウマちゃんはF-104Jが好きだよ…?銀色の円柱型にすごいレトロフューチャーを感じるし、ビンテージなSF小説の挿絵のように思えて、こんな形のジェット戦闘機が実際に飛んでいたなんて知らなかったから、やたら感動しちゃったんだよね。まあ、にわかファンなんだけど…

 めちゃくちゃ唐突な会話だが、トマちゃんとウマちゃんには上の図で説明した以上のたくさんの設定がある。一言でいうと、ウマちゃんは普通のボンクラで、トマちゃんは歪んだボンクラである。なので今回こういう話が始まっている。

トマちゃん

さすがウマちゃんはよく語るなぁ。この映画見ようよ。『スターファイター 未亡人製造機と呼ばれたF-104』!
 原題でググったら出てきたトレーラーがこれだ。この空に消えていきそうなタイトルロゴが出てくるタイミングが絶妙なので、ぜひ本編で見てください。

ウマちゃん

未亡人製造機!?あったなぁ…F-104にそんな重い過去!!なんだかものすごく嫌な予感がするよ!?っていうか絶対主人公が死んでヒロインが残されるやつじゃん!重いよ!戦争映画とは違った悲しみに満ちてそうだし、なんか中身の想像がつかなくて怖いよ!

トマちゃん

中身の想像ちゃんとついてるじゃん!見てから「辛かったね…」って語りあえば大丈夫だよ!

ウマちゃん

そういう問題かよ!でもF-104が主役の映画は気になる…!やっぱ見るしかないんか…!

めちゃくちゃつらい

それから2時間後…

トマちゃん

いやぁ、すごかったね。ウマちゃんのリアクションが。

ウマちゃん

も…もう、感情を揺さぶられ過ぎて辛いよ。それでもウマちゃんはF-104が好き!!とか、いやぁ戦闘機ってやっぱり良いもんですね…とかしか今は言えないよ!!

トマちゃん

どんだけ好きなんだよ…。

ウマちゃん

だってそういう「戦闘機大好き!」な演出も多かったじゃん!?冒頭、キーン!っていうジェットエンジンの音が聞こえてさあ、軽快なオールディーズなんか流れてちゃってさあ、60年代です!って雰囲気出しながらF-104が曲芸飛行やってるの。「この音サイコー!」とか言いながら見学者がワイワイしてたら…!ウッ…!!

トマちゃん

開始3分後に、4機いっぺんに墜落すると辛いよね…。

ウマちゃん

あのオープニングには悪意がこもってるよ!!

トマちゃん

この映画、ドイツでテレビ映画として作られて、ゴールデンタイムに放送されたって書いてあるね。*1

ウマちゃん

オープニングでキャッキャしてたら、いきなりお通夜ムードに突入するんだから!ここでチャンネル変えた人絶対にいたでしょ!!

トマちゃん

まあ確かに、オープニングに出てきた男連中が、このあと何人生き残るかな?って感じだったね…。

ウマちゃん

しかも、平和な日常(死亡フラグ)!F-104が飛んでる!墜落!!お通夜!葬式!!の繰り返しでメンタルがドッと疲れた後、主人公が死んで、嫁が訴訟起こすまでに苦労に苦労を重ねるんだからね!?もうなんか、飛んでるF-104のことだけ考えるようにして後は忘れた方が幸せなんじゃないかと…ウウッ…!

トマちゃん

よしよし。最後まで辛い映画だったよねえ。

ウマちゃん

この、無邪気に喜んでいたらいきなりお通夜!っていうのがすごくキツかったんよ!何だろうこの…逆『風立ちぬ』みたいな…。『太陽の帝国』みたいな…?まだ見れてないんだけど…

トマちゃん

今シレッと見てない映画に例えたな?まあいいわ。それで…

ウマちゃん

戦闘機は人殺しの道具なんだけど、わしらはそんな戦闘機が大好きなんじゃ!っていう業を背負っているってのは分かるんだよ。でもこの映画のF-104は、何にもしてないのにいきなり故障して墜落するから!無辜のパイロットが死んだ!っていうショックだけがあるの!つらいよ!!ラドン*2にやられて墜落したF-86パイロットの血に染まったヘルメットを見てるあのシーンとはわけが違うの!!!(机を叩きながら)

トマちゃん

ウマちゃん落ち着いて!!

陰謀が渦巻きすぎてる

 

トマちゃん

要約すると、まず西ドイツはF-104を900機も買って飛ばして、200機以上墜落してパイロットが100人以上死んでいる。F-104は墜落しても原因がろくに調査されないし、報告書にも嘘だろって話ばっかり書いてあるし、それを告発したら、スパイ容疑をかけられたり変な噂を流されてしまう。仕方ないので、被害者の未亡人が集まってロッキード社を訴えたら、謝罪はしないけどカネだけは払うと言われて激おこ!みたいな話だった。

ウマちゃん

カネだけは貰ったけどさぁ、ぜってー許さねえからな!っていう固い意志を感じたよね…。ロッキードとの示談交渉のシーンで、ベッティが着てた衣装が派手なアニマル柄っていうのがもうアグレッシブすぎて、ちょっと良かった…。

トマちゃん

てかさあ、示談交渉のシーンに「イタリアやオランダでは買収したくせに!」って台詞あるけど、ここ、ヤーパンって言ってない?「イタリアやオランダや日本で買収した」って言ってるよね…?字幕どうなってんのこれ。

ウマちゃん

ンアアアア!!!

トマちゃん

どうしたのウマちゃん!?

ウマちゃん

やめて!自衛隊のF-104Jはスターファイターじゃなくて"栄光"だから!MADE IN JAPANだし西ドイツほどすごい事故は起こしてない*3から大丈夫!!とか思って対岸の火事だと認識しようとしていたところに「お前らも当事国だからな!」って迫ってくるのやめてぇ!!

トマちゃん

そ、そうか!こうやって発狂する人が出ないように、字幕の人が気を利かせてくれたのかもしれないんだね!ロッキード事件的にはイタリア、オランダと来たら次は日本だから、お察しな内容なんだけど!てか対岸の火事って認識はさすがにひどくない!?

ウマちゃん

あまりのしんどさにメンタルが耐えられないんだよー!ウマちゃんの情緒はもうぐちゃぐちゃだよ!!なんでここで偶然にも敗戦国が3つ揃って話題に登るの!?無性に悲しくなるわ!ンアアアアーン!

トマちゃん

多分そういう悲しみは意図してないと思うよ!?怖いよこの映画!ヤブをつついたら、蛇がやたらたくさん出てきたみたいで怖いよ!!

見せ方にものすごくこだわっている

 

トマちゃん

この映画って、スターファイターっていうタイトルから「男の子って、こういうの好きなんでしょ…?」っていう雰囲気が発せられてるんだけど、後半から完全にサスペンスだったよね。国家的陰謀に巻き込まれて四面楚歌!って感じの、ありきたりなプロットだけど…これがなんと実話ベースというから怖いね。

ウマちゃん

しんどいよね〜!!!

トマちゃん

しんどいねー…。

ウマちゃん

ウマちゃん的には、タイトルからして悲劇の予感しかしなかったから、何のミスリードも感じなかったんじゃが…。

トマちゃん

この事件を若い世代にも伝えなければならない!っていう使命感から、この作品は作られているはずだから。色々な楽しみ方ができるように、すごく頑張って脚本作ってくれてるんだろうなぁ…って思ったよ。

ウマちゃん

軽快なオールディーズのせいで、葬式以外のシーンはかなり雰囲気が良くなってるからね…。

トマちゃん

ザッピングして途中から見てた人なら、冷戦時代が舞台の恋愛ドラマなのかな?って騙されたんだろうなー。

ウマちゃん

そして墜落する。

トマちゃん

それな。

ウマちゃん

確かに、飛んでるF-104を期待してる人たちにも、めっちゃアピールしてくれてるんだよね…。だから感情移入の仕方がバグって、ウマちゃんみたいになるひとが出てくるのか…。トマちゃんからサスペンスって言われるまで、そういうとこに全然気が付けないくらい混乱してたわ。

トマちゃん

そんなにも…?とりあえず落ち着いてくれて良かったよ。

ウマちゃん

とにかく、あっけなくF-104が墜落して、次々に葬式のシーンになるのが、自分が思ってる以上にショックだったんだわ…。

トマちゃん

そういえば事故原因を自分たちで調べようって言って、家にF-104のトリセツみたいな資料を持ち帰ってる辺りに、すごく60年代っぽさを感じたよ。

ウマちゃん

出たなレトロブーマー。そこが気になるのか。情報の扱いが若干ザルな感じが昔っぽいのは分かるけど、こうしてウマちゃんが苦しんでる横でそういう顔しちゃうんだ!?あり得ないよ!!

まとめ

 

トマちゃん

これは国家的な、国際的なすごい陰謀なんだよ!!パイロットはその犠牲者!っていうメッセージが、ひしひしと伝わりました…。『トップガン』みたいなエンタメ路線を期待した視聴者の心を初っ端から折って、こういう映画だからな!って釘を刺してくるオープニングも、そういう意図だよね。

ウマちゃん

一言で言うと、闇のトップガンじゃった。ミリオタたちよ!ドイツ人の怒りを知れ!的なメッセージがドラマの間から溢れてきて、絶望が心臓にブッ刺さるみたいな…。クトゥルフ神話TRPGに例えるなら、SAN値がごっそり減った後にアイデアロールに成功して一時的狂気に入って後遺症まで残るような映画じゃった…。

トマちゃん

クトゥルフ神話TRPGの話はやめなよ。

ウマちゃん

要するに、不安定になった精神を安定させるためにF-104Jマニアになってしまうんです!!またはF-104恐怖症になる!

トマちゃん

ウマちゃんはマニアのほうなんだね…。トマちゃんの心にいちばん刺さったのは、あの「俺もしかして、死亡フラグ立ってる…?」って感じで、機体を点検してるシーンかな。

ウマちゃん

実際死亡フラグだったやつじゃん…。とりあえずこの映画を見て無邪気な心が折られたけど、まだF-104のことが好きなんです…って謝りたくなるような映画でした…。


 こうしてトマちゃんとウマちゃんはエンタメ的な「しんどみ」では片づけられない辛さを、文字通り痛感したのであった。おわり。

*1:Starfighter – Sie wollten den Himmel erobern – Wikipedia
ウィキペディアの記事。ドイツ語だけど、Chromeの翻訳機能を使えば普通に読める

*2:『空の大怪獣ラドン』(1956)のこと

*3:F-104 (戦闘機) - Wikipedia
この記事の「日本」の項目を見ると、それなりに事故を起こしていることが分かるが、さすがに西ドイツほどの数ではない。

BLセッションをするときは、必ずプレイヤーの地雷についてリサーチするんやで。せんかったら死ぬで。(ブログ主からのメッセージ)