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悪意の宿った殺人自動車が人間を襲うホラー映画を見る

ポゼッスドカー日本代表の似姿的な挿絵

轢殺の轢という字はね、車が楽しいと書くんです。つまり、進行方向にある何かを踏み潰して通り過ぎる行為は、車にとって楽しいってことです。

はじめに

 例によって、某ヤンマガの車マンガにハマってしまったお陰で、色々と新しいことに挑戦せざるを得なくなっている。それはまるで、否応なくジェットコースターに乗せられて絶叫しているかの如きオタクエクスペリエンスである。そんな渦中にあって、特に私が関心を寄せざるを得なかったのが、悪意に目覚めた 殺人自動車 (ポゼッスドカー) が人間を襲うホラー映画であった。

 悪意に目覚めた殺人自動車が人間を襲うホラー映画。ホラー映画界でも、たいへんレアなジャンルである。今回の記事は、そんなレアなジャンルの映画を見ていくことで得られた気付きなどのまとめである。

殺人自動車映画の世界

 今回扱うのは非常にレアなジャンルということで、改めてこのジャンルについて分類を細かく考えていこうと思う。

 今回の記事を書くにあたって、「殺人自動車 映画」でググって出てきた映画は色々試しに見てみた。しかし一言で殺人自動車映画といっても、出てきた映画の扱う内容はけっこう違うことが分かった。分類すると、こんな感じである。

  1. 乗っている人間が怖い型
  2. 首なし騎士型
  3. 生きる無機物型

 次の段落からは、これらの分類の定義について説明する。

①乗っている人間が怖い型

 今回の記事では、自動車絡みの怖い映画で、後述する②と③に分類できない作品を①とすることにした。私が求めるものは最も魅力的な存在である③であり、その他大勢という意味である。

 正体不明のトラック運転手に追跡される『激突!』(1971)。無名時代のスタローンが出てるってんで有名な『デス・レース2000年』(1975)*1。無敵の人になったラッセル・クロウが、ただ煽るだけに留まらずキレまくる『アオラレ』(2020)。この辺りが、代表的な①である。

 殺人自動車とはいうものの、乗ってる人間が怖いのであって、車は道具にすぎない。そういう設定の映画は少なくないし、決してレアなものではない。そのため、結局人間がいちばん怖いなんて当たり前な話はまとめて①とすることにした。今回の記事では、この①に分類される映画の話はしないようにする。

②首なし騎士型

 悪意を持った超常の力を持つ運転者専用のスペシャルな乗り物が出てくるホラー映画は、②に分類する。③との違いは、どちらかといえば車より運転者のほうが主体的な悪意を持っていることである。

 この首なし騎士型という名前は、文字通り首がない騎士の幽霊と、首なし騎士が乗る馬の幽霊のセットをイメージしている。悪い妖精デュラハンとか、『スリーピー・ホロウ』に出てくるあれみたいなやつ。つまり乗り物もセットで超常の力でできた怪異のことである。デュラハンは首無し御者と馬車のセットだったりもするらしいので、この類型の名前にしておけば収まりがいいと思った。

ja.wikipedia.org

 ところで日本には火の車という妖怪がいる。これは地獄の獄吏が悪人を迎えに来るときに乗せる専用の台車であり、火の車自体は特に自分の意志で動いているわけではないらしい。なので、モータリゼーションされた地獄の獄吏が火の車で悪人を迎えに来るのがメインのホラー映画があれば、②に分類されるだろう。多分。あとゴーストライダーがもっとホラー寄りで、自動車に乗って出てくるなら②になると思う。

③生きる無機物型

 今回の記事の本丸、悪意に目覚めた殺人自動車のことである。まず何かの理由で悪い意志を持っており、誰も乗っていなくても勝手に走り、人間を襲うことができる車を殺人自動車 (ポゼッスドカー) 命名する。そしてそのポゼッスドカーが出てくるホラー作品が、③であると定義した。

 ポゼッスドカー(posessed car)という言葉は『トランスフォーマー/ビースト覚醒』(2023)の主人公が発した「悪魔に憑かれた車か!?」という台詞にちなんで命名している。*2なのでトランスフォーマーが発狂して文字通りの暴走を始めたホラー作品があるなら、ここに含めても良いと思う。あと、テレビドラマ『ナイトライダー』(1982~1986)のK.A.R.R.もこれに含まれると思った。

 『ナイトライダー』はホラー作品ではないし、映画でもないし、K.A.R.R.は直接人を転がす場面が本編にない。しかしK.A.R.R.は様々な殺しのアビリティを持っており、明確に殺意を持って主人公を襲ってくる上に演出がかなりホラーだったので、なんかもう③でも良いかなと思った。

 これは②よりは多いが、ホラー界隈全体からするととてもレアなジャンルである。設定からして最もぶっ飛んだ存在であり、ものによっては人間を意のままに操るなどのヤバい機能をそなえていたりする。そんなポゼッスドカーの悪逆無道、何としても見るしかない!

実際に作品を見てみる

 ポゼッスドカーが出てくる映画は本当に少なかったが、内容が濃かったので感想文がいちいち長くなった。しかしせっかくなので、もっと数少ない②の感想も書いていく。

『処刑ライダー』THE WRAITH(1986)

 チャーリー・シーン主演のハード・カー・アクション。アリゾナの田舎町を舞台に、不良たちにより強引に山道レースを強要され、車を奪われた挙句に殺された青年が、漆黒のハイパー・スポーツカーに乗り込み復活。不良たちを次々公道レースに誘い込み抹殺していく……。(下記リンク先より引用)

 奇しくも超レアな②の作品である。本国では1986年公開なので、チャーリー・シーンは『プラトーン』(1986)と『ウォール街』(1987)でオリバー・ストーンの映画に2連チャンしてた時期に、こんなドB級映画にも出てくれたということになるだろう。嬉しいなぁ。この作品はツタヤディスカスYouTubeで見られるが、私は数年前にBSで放送されたときに初めて見たので、テレビでもまだ見られる可能性がある。

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 この『処刑ライダー』はホラー映画というより、ダッジM4Sというコンセプトカーが登場する作品として界隈に名前を残しているようだ。

 結局市販されることが無かったコンセプトカーがその辺の砂漠に出てきて、ストリートレースをやる。変わった映画があるんだねぇ。そういう興味を引く設定である。だがこの壮絶な邦題が示すとおり、やることは主に処刑であった。

 まず冒頭。夜空に流れ星が現れたかと思うと、砂漠の中の道を疾走し始める。たくさんの流れ星が集まって合体し、ダッジM4Sが出現する。作中では死神(The wraith)と呼ばれる処刑ライダー本人も登場。この時点でもう尋常ではない。

 まさかこの気味の悪い車が実在するコンセプトカーだとは知る由もなく、ただただ不吉なサムシングだとしか思えなかった。登場人物も「見たことがない車だ」とか「カスタムカーだ」とか言い合っている。ナンバープレートはついていないし、ガラス部分は全部真っ黒で内部は伺い知れない。しかしなぜかボンネットの先端についたクライスラーのエンブレムだけは、途中の場面にもよく写っている。どういうことなの?*3

https://cosmicinvader.net/post/645816320712114176

 そんなこたぁまあいい。この車のスペックの話をしよう。

  • パトカーに追われたら、光になって消滅する。
  • 自爆して木っ端微塵になっても、次の瞬間にはリスポーンする。
  • ミッドシップなので後ろにあるエンジンフードを開けると、内臓みたいなエンジンが文字通り脈打っている。

 すごい!まさに首なし騎士の首なし馬みたいな②ど真ん中の幽霊自動車だぜ!!!

 私は興奮した。厳密にはポゼッスドカーではないが、あまりにもキレッキレすぎるのでやっぱ②もスゲーやッ!と思った。今回の記事のために数年ぶりにこの作品を見直したのだが、エンジンのシーンだけはキモすぎて最初に見たときから忘れられなかった。リスポーンする場面が何度もあることは忘れていたのにだ。

 そんな演出もあるが、『処刑ライダー』は全体的に色々な80年代らしさが爆裂していて味わい深い。日本でこの作品が公開された1987年という時期は、ドラマ『ナイトライダー』がひと段落したころである。トミー・リー・ジョーンズの『ブラックライダー』(1986)あたりもそうなんだけど、タイトルを被せてきた邦題なんだろう。世界に一台だけのスペシャルなのりものが主役の映画というのが当時は他にも色々あるし、そういう時代だったんだろうな〜。それはあるにしても、『処刑ライダー』ってタイトルは原題より全然納得がいくわ。などと考える。

 しかしこの作品、なんで?って感じの終わり方をしてしまう。正直言って、私はラストに納得がいかなかった。この設定、『ナイトライダー』の主人公マイケル・ナイトにインスパイアされているんだろうとは思う。それにしても、納得いかない。

 処刑ライダーとダッジM4Sが出て暴走族を処刑することで、何かが減っていっているらしい。そして最後にはああなるのだが、その因果関係は分かるものの、理由が分からない。なんでそういう現象が始まって、こういう形で終わるのか。説明がないのである。でもまあ深く考えてもどうしようもねえな!表面は雰囲気系のデートムービーとして作られてるっぽいし、中身なんか多分無いんだよ!忘れよう!クソッ!次行こう次!

なんか描いてしまったファンアート

 ところで作中で処刑されている暴走族の中に、『北斗の拳』のザコみたいなビジュアルのモヒカンがいる。燃料と書かれた容器の液体を飲んで「効くゥ〜ッ!!」とか言っているのだが、DVD版の吹き替えはなんと千葉繁だった。この配役の意図はよく分かるわ。

『殺人ブルドーザー』KILLDOZER(1974)

 暴走する重機が人々に襲い掛かるカルトSFサスペンス。大西洋に浮かぶ孤島に隕石が落下し、隕石に宿っていた未知の生命体が接触したブルドーザーに乗り移る。すると、無人のブルドーザーが明確な殺意を持って動き始め、作業員たちに襲い掛かる。(下記リンク先より引用)

 原題を直訳した邦題も分かりやすいが、そのままカタカナにしたキルドーザーというタイトルも非常にキャッチーなこの作品は③である。2004年に起こったキルドーザー事件*4の名前にも影響を与えた、一部の界隈では有名ないわゆるカルト映画であるとされる。この作品はDVD化されたのがつい最近らしいが、例によってツタヤディスカスなら見ることができる。

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 とても淡々とした調子の作品である。5人の登場人物は全員男。第2次世界大戦中の遺構を探検して道草をくいながらも、無人島の地ならしを続けている。ある日、ブルドーザーが地中から隕石を掘り出したことで異変が起こる。隕石の中に潜んでいた青く光る何かがブルドーザーのブレードに乗り移り、そのときに発した強い光を近くで見てしまった作業員がぶっ倒れたことで、最初の事件が起こる。無線で応援を要請したが、次の補給船が来るまであと4日。
 そんな職場の現場監督が主人公なのだが、この人があまりにも沈着冷静なので、見てる私はそこまで恐怖を感じなかった。異変は起こっているが仕事を続けるように指示する場面も序盤にはあり、まあ同僚が突然死したらショックだけど、忙しくしてる方が気もまぎれるもんなーとか思えてしまうのである。リーダーが動揺しないでいることって、危機管理の上でとても重要だな!と思えた。

 そんな感じでこの作品、『アンドロメダ…』(1971)みたいなSFに近い雰囲気である。調べてみたら、原作者はシオドア・スタージョン*5だった。作者のネームバリューだけで判断するなら、由緒正しいSFなのである。いかにもな字体のタイトルロゴを見て悪趣味ホラーを期待してしまったのだが、どちらかといえば辺境惑星で未知の生物に襲われる系SFのようなノリだったのも納得だ。
 ブルドーザーは人間を追いかけるだけではなく時々立ち止まり、意味もなくブレードを斜めに動かしたりして、首をかしげる動物のような動きもする。たったこれだけのことで、本当に生きているように見えるので驚いてしまった。

 悪意が宿ってしまったブルドーザーは、まあ当たり前のように強かった。人間たちの寝床はただのテントなので、あっという間に踏み潰してぺしゃんこにする。人間たちが狼煙を上げているのを見つけたら、現場をサクッと掃除して鎮火させる。さらに崖の上に移動して土砂を落として攻撃してくるのは、いかにもブルドーザーならではだと思った。

 『殺人ブルドーザー』は轢殺シーンはあっても直接的な描写がなく、次のシーンではすでに仲間の遺体を埋葬し終わっていることが多い。テレビ映画だから、描写がマイルドなんだろうな。それにしても殺人ブルドーザーは、不可解にも作業員たちを一度に皆殺しにすることはなかった。作業員たちは同僚の死にショックを受けながらも、ブルーシートで遺体を包み、海に近い場所に並べて埋める。埋葬が終わると、故人の思い出を述べる。
 ブルドーザーは人間たちが行うこの一連のルーチンを、じっくり時間をかけて見学しているかのようだ。この、今まさにあり得ないことが起こっているという違和感が強く印象に残った。
 ホラー映画の悪役なら、逃げ惑う人間たちのリアクションを愉快に見学しているのは当たり前である。しかし『殺人ブルドーザー』の淡々とした展開の中では、とても異様なことが起こっているのだと思えた。
 機械がシリアルキラーめいた発想で人を殺して遊ぶだと?そんなことはあり得ないだろ…?というSAN値高めな正常性バイアスがこの作品にはあり、ホラーというよりはSFとして、モンスター退治をしているような印象を受けた。作品の登場人物を科学者ライクな思考の持ち主にすることで、題材の悪趣味っぽさを中和する力が働いているような気がしたからだ。畑違いの学者たちが力をあわせて船内に侵入した宇宙人を捕獲する小説『宇宙船ビーグル号の冒険』みたいな雰囲気だ。

 この作品を見ると、後述する『ザ・カー』(1977)は、同じ題材をカーアクションエンタメとか視聴者を動揺させるホラーとして押し出し、ブラッシュアップすることで生まれたのかな?と思えてくる。制作会社は同じユニバーサルだからである。

『クラッシュ!』CRASH!(1976)

 現在見る手段が無さそうなのだが、あらすじを聞くからに③な映画が『ザ・カー』の前年に作られていた。年代的に、偶然のネタ被りだとは思う。しかし悪魔とスポーツカーとポゼッスドカーの要素が初めて合体したのが、この映画だったのかもしれんわけだ。

 予告編にも出てくるが、よりによってオープン状態のカマロが無人で走っている。なかなか気合入ったこのポゼッスドカーの爆発大アクション、じっくり鑑賞しておきたかった。残念である。

eiga.com

『ザ・カー』THE CAR(1977)

 中西部の田舎町に突然出現した黒塗りの車は無差別に殺人を繰り返す。保安官はそれが無人車であり、超自然的な力で動いている事を突き止めるが……。オカルト・ブーム末期に登場した変種ホラーで“陸のジョーズ”を狙った造り。道路封鎖したパトカーを横転して叩き潰すシーンが最大の見もの。(下記リンク先より引用)

 この作品をホラー映画界の大きなジャンルに含めてしまうなら、悪魔系だといえる。そして③である。この作品はツタヤディスカスでなら見ることができる。

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 まずこの作品はアントン・ラヴェイが悪魔を呼ぶ言葉の引用から始まる。
 とんでもねえ衝撃である。悪魔を扱った映画の冒頭って、だいたい聖書の引用から始まるもんじゃない?それが、現役バリバリのサタニストのお言葉から始まるとな!『ザ・カー』のウィキペディア*6によると、アントン・ラヴェイはテクニカルアドバイザーとして作品にクレジットされているらしい。どういうテクニックについてだよ!!さらにこのシーンでグレゴリオ聖歌の「怒りの日」のアレンジテーマ*7が流れてくるので、だいぶ際どいところを攻めてんな!!と名状しがたい期待度が一気に高まる。

 この映画はツタヤディスカスのあらすじには陸の『ジョーズ』(1974)といった造りなんて書かれているが、むしろカーアクション映画としてスケールアップした『エクソシスト』(1973)だろうと私は思った。無辜の少女にとり憑いた悪魔がFワードで神父を罵る代わりに、この映画では悪魔が乗り移った車がドーナツターンで保安官を挑発したりするんだと。

 確かに、黒い車が市民を轢殺する場面は、浜辺に現れた人食いサメめいてはいる。しかし轢殺された被害者のそばには常に、何かしら問題を抱えた男どもが生き残っていた。そいつらのバックストーリーが描写される辺りが、とても悪魔ホラー的だと思ったのである。

 『エクソシスト』もそうだったが、悪魔ホラーで悪魔祓いの儀式をやる人は、しばしば悪魔から精神攻撃をされる。悪魔祓い師の後ろめたいプライベートな情報が映画の中盤までに描写され、悪魔は必ずそれをネタにして悪魔祓い師を動揺させるとかそういうプロットである。『ザ・カー』にはそこまで踏み込んだ内容は無い。その代わり、なぜ無辜の市民や誠実な保安官から先に死んで、アル中保安官とDV男が生き残るんだ!!と不快感をおぼえさせられる。ここらへんが、悪魔ホラーっぽくて巧妙な仕掛けだと感じた。
 普通のスプラッタホラーだと、たいてい悪いヤツから死ぬものだ。浮気男とか、尻軽女とか、ヤク中みたいなヤツはその悪徳ゆえに死ぬ。そう決まっている。その思い込みを、『ザ・カー』は使ったのだろう。
 この作品の悪魔は、登場人物が思い通りに生き残ってくれない喪失感で視聴者を苦しませる。死亡フラグが立ってるのは、あいつらの方じゃないの!?なぜ!?善人が死ぬ必要はない!!などと、因果応報の法則に従わない黒い車に対して、私はものすごく動揺していた。
 この黒い車に立ち向かうことになる男連中が数人いるが、そいつらも同じように動揺している。なぜ自分が生き残った?あの車の運転手は何を考えているんだ?と。だが車には誰も乗っておらず、車にはドアの取手も無い。主人公はその取手がないドアが開いた勢いで、路肩に跳ね飛ばされてしまう。車はそのまま主人公を放置して走り去る。主人公も私も、意味不明さに呆然とするしか無かった。

 『エクソシスト』の最後の方に、なぜこの少女が苦しまないといけないんだ!?と神父が嘆く場面がある。悪魔の仕事は多分人間を苦しませることなので、悪魔憑き現象が起こる際には当事者よりも支援者のほうがメンタルにダメージを受けている場合が多い。知らんけどそういう演出になっているので、そういうもんなのだろう。この辺りの感覚に共感して一緒に絶望するには、ある程度の人間性が必要になる。
 前にも書いたように、私はホラー映画で人が死ぬ場面をエンタメとして鑑賞するボンクラである。『エクソシスト』を見ても、なんでリーガンが悪魔に憑かれたか分からないのがそんなに気になるの〜?*8くらいにしか思っていなかった。しかし『ザ・カー』を見た私は、やっとカラス神父の絶望とやるせなさを理解できた。この映画は私にとっては、道徳の教材ビデオみたいなものだったんだと思う。いやぁ、見てよかった…。

 そんなわけでこの映画、最初から最後まで観客を動揺させる仕掛けに溢れていた。もう本当に衝撃だった。70年代のホラー映画を見てこんなリアクションをすることになるとは全く思っていなかったので、舐めた態度で見始めて本当にスミマセンした!!!などと各方面に謝罪しに行った方が良いんじゃないかとも思った。作中には「この車には悪魔が憑いています」なんて説明は全然無いが、間違いなく悪魔がおると思えるのは、そういえばすごいことだと思った。

 なおウィキペディアには『ナイトライダー』のK.A.R.R.が崖から飛び出るシーンに『ザ・カー』の場面が流用されていると書かれているが、これも確認した。たしかに明らかにトランザムではなさそうな車*9が一瞬映っていて、大興奮してしまった。しかしK.A.R.R.を奪った強盗たちが「あの車は悪魔の化身だ!」と言い合う場面などもあるため、ただの流用というよりは目の肥えたオタク向けのサービスだったのかもしれない。制作会社は同じだしな。

『クリスティーン』CHRISTINE(1983)

 呪われた'58年型赤のプリマスを手に入れた少年。クリスティーンと名付けられた車は、自ら意志を持って復讐を開始する。スティーヴン・キングの同名小説の映画化。(下記リンク先より引用)

 『ホラー映画で殺されない方法』*10に曰く、この作品は「超レアな"悪意の宿った車"ジャンルに君臨するチャンピオン」であり、③である。これまでに紹介してきた作品と比べて、タイトルがダントツでエレガントな時点でもう勝負は決まったといえるのではないかと思う。この作品は有料だがアマゾン・プライムでも見ることができる。

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 クリスティーンとは、プッシーの匂い以外と比べれば最高とか言われている車の名前である。1958年型プリマス・フューリーとはその原型に過ぎず、この車はクリスティーンである。
 私は『ホラー映画で殺されない方法』を読んで以来とにかくこの作品のことが気になり、映画を見てから原作本も読んだ。この作品は原作本の発売とほぼ同じタイミングで映画化されたためか、エンディングやなんかが少しずつ違う。両方それぞれの良さがあるのだが、この記事では映画を中心に紹介する。

 映画はまず、クリスティーンが生まれた工場*11の生産ラインから始まる。この時点でクリスティーンはすでに悪意に目覚めており、労災を2件発生させた。原作によると、クリスティーンは初代オーナーのルベイが特注で作らせたスペシャルな車なので、カラーリングやシートがノーマルとは異なるとのこと。
 納車後のクリスティーンはルベイの愛車となり、文字通り愛されまくった。しかし例によって、ルベイの家庭を破壊した。娘は車内でハンバーガーを喉に詰まらせて窒息死し、妻は車内に排気ガスを引きこんで自殺した。
 そして1978年。次のオーナーになる少年アーニーとの運命的な出会いが近づいていることをさとったためか、ルベイは愛車をついに手放すことになった。

 主人公のデニスは、ヒョロガリメガネでいじめられっ子のアーニーの親友だ。いま付き合ってる女子はともかく、アーニーの世話のほうを優先している。ある日アーニーはボロボロの車クリスティーンに一目惚れし、親の反対を押し切って購入する。その後何やかんやあってアーニーは、信じられないことに学校でいちばんの美少女と付き合うようになった。
 デニスはショックを受けた。どちらかといえば、クリスティーンに入れ込むあまり、アーニーの性格が豹変したことに対してだ。そして町内で起こった謎のひき逃げ事件の犯人がクリスティーンであると確信し、その破壊を決意する。

 最初に映画版を見たときから、私はクリスティーンの存在感に衝撃を受けまくった。クリスティーン、マジヤンデレ。いやヤンデレというか、意図が分からなさすぎて怖かった。V8エンジンのどデカいパワーがあり余りすぎて、関係者を皆殺しにしてるとでもいうのか。
 クリスティーンの走行距離メーターは、逆向きに回転していく。そしてクライマックスでついにゼロになる。この辺の演出がとくに意味不明で、怖かった。ゼロになったら何が起こるのかも分からなかったが、あの瞬間がいちばん怖かった。

 そんなクリスティーンの脅威を演出する特撮がまた、すごかった。チンピラどもにボコボコにされたクリスティーンが、アーニーの「見せろ」という言葉に応じてヘッドライトを輝かせ、新車のようなピカピカの姿に勝手に治っていくこの場面。劇伴はサックスがやたらムーディーにブバババァ〜♪と鳴り、これが愛のパワーだ!といわんばかりである。
 逆再生なんだろうとは、すぐ思い当たる。さっきまでそんなふうには壊れてなかったよな?という気もする。しかしそれにしても、大破した車が勝手に再生していく様子は、何度も見たくなる爽快感があった。

クリスティーン原作本

 『クリスティーン』がこれまで紹介した作品と比べて画期的なのは、自動車と人間の関係性に踏み込んできた点だと思う。
 家族をないがしろにして車にお金をつぎこむ人について、その心の闇に注目するホラー。そういう人のフェティッシュというか、心の闇は素で怖いね。そしてその人の愛車が、魔性で人間を操ってたら怖いね。自動車趣味の暗黒面にハマっている当事者はあまりホラー映画とか見なさそうだけど、切り口が斬新といえるのではないか。
 原作は、この心の闇の少し外側にフォーカスしていたと思う。ど直球ストレートにやるとメンタルにダメージを受ける人もたくさん居そうなので、深く掘り下げないように気をつけて書かれているような印象を受けた。それでもけっこうズッシリ来る重さはあるのだが。
 一方で映画はクリスティーンの意味不明な魔性にフォーカスしているので、ルベイの存在感は薄いし、アーニーが最後にああなるのではないか。だから原作と比較すれば、自分も将来原作ルベイみたいな年寄りになっちゃうんじゃないかという嫌さはなく、ストレスがかなり軽減されてると思う。そんな配慮があるような気がする。

 てなわけで、『クリスティーン』がポゼッスドカー界のチャンピオンなのは間違いない。原作者のスティーヴン・キングと監督のジョン・カーペンターのネームバリューからして約束されたオモシロさを確信する人も多いだろうと思う。ホラー映画として優れている以上に、見た人の心に爪痕を残すこの嫌さ。ぜひ一度ご覧になってほしい。

『地獄のデビル・トラック』MAXIMUM OVERDRIVE(1987)

 地球の側を通過した彗星の影響で、地上のあらゆる機械が人間を襲い始めた。田舎のスタンドに閉じ込められた人々は意志を持つ巨大トレーラーとの闘いを強いられる事になるが……。モダン・ホラー作家スティーヴン・キングの監督デビュー作。(下記リンク先より引用)

 スティーヴン・キングが脚本と監督をつとめる悪趣味スプラッタ系ホラーであり、③である。ホラーコメディといっても良い。この作品はツタヤディスカスでなら見ることができる。

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 世間では駄作と言われている場合が多いが、原題からしてそういう系だとすぐに分かりそうなやつである。なので個人的には、冗談を冗談と捉えられなかったり、いちいち貶して下に見ないと気がすまない人たちに向けて作られた作品ではないことは、明白だと思っている。悪趣味スプラッター映画には悪趣味スプラッター映画なりの評価軸で対応をしなきゃダメだろ常識的に考えて!と私は言っておきたい。
 まず冒頭。地球が彗星の尾に突入したことが原因で、機械が暴走を始める。具体的には、電光掲示板にファッキュー!と表示される、ATMの画面にアスホール!と表示されるなどである。なおATMの前で驚いている男はスティーヴン・キング本人らしい。
 このように『地獄のデビル・トラック』は冒頭から完全にふざけており、悪ノリが素晴らしいことが分かる。音楽はAC/DCが担当しており、エレキギターで演奏される『サイコ』(1960)のあの曲が流れるとスプラッタ描写が始まったりする。冗談でもなければ、こんな描写は決してしないだろう。意識高いな~!

 いつしか主人公の働くドライブインの周囲にはトラックが集まり、周囲をグルグル走り始める。あのドライブインまで逃げなきゃ!だめよ轢かれるわ!隙間をねらうんだ!といった茶番が繰り広げられたりする。登場人物は真剣なのだろうが、見てるほうはもうニヤニヤ笑いが止まらない。

https://www.tumblr.com/junkfoodcinemas/684010687462277120/maximum-overdrive-1986-dir-stephen-king-on

 コメディの笑える場面の解説をし続けるのも何なので、解説はこの辺にしておく。ホラーコメディだと割り切ってしまえば、全然オッケーな作品であった。テンポが悪くないし、爆発シーンも見ごたえがあって良かった。スティーヴン・キング、映画監督としても全然イケてると思います。
 ところでこの映画の原因の設定について、『殺人ブルドーザー』原作の解説記事*12で言われて初めて気がついたことがあった。作品自体のプロットがほぼ『殺人ブルドーザー』と同じなのである。
 それが何を意味するのか。まあやっぱり、リスペクトしてるってことなんだろうな。

『ザ・カー:ロード・トゥ・リベンジ』THE CAR: ROAD TO REVENGE(2019)

 漆黒の無人車両が殺人を繰り返す1970年代のカルトホラー『ザ・カー』をリメイクしたバイオレンス・カーアクション。犯罪集団に襲われた検事がビルから突き落とされ、愛車の上に落下して死亡。検事の魂が憑依した車が、犯人たちをひき殺していく。(下記リンク先より引用)

 驚いたことに、『ザ・カー』には最近作られた続編があった。そんな③の作品があるなんて知らなかったわ!と思った人ならわかると思うが、要するにクオリティが微妙なので話題になってないからである。この作品はYouTubeに課金すれば見ることができる。もちろんツタヤディスカスでも見られる。

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 オリジナルは、次回作は都会でやりたいような雰囲気で終わる。だからといって、40年ぶりの続編を近未来バイオレンスアクションにする必要があったのか。私としては、これが80年代に作られた作品だったのであれば、俗悪だけど1周回ってアリといえるかもしれないと思った。しかしこの作品が本国で公開された2019年とは、令和元年である。どうして今更、こんな奇をてらいすぎた続編を作った!?冗談が通じる気配が全然ない原作に対して、ふざけすぎてるんだわ!
 …と斬って捨てるのは簡単だが、そのふざけた追加要素の最たるものであるはずの敵キャラたちの造形は、それなりに凝っていた。私はそこにデザイナーの癖(へき)を感じ、これは作り手側がベストを尽くした作品なんだなと思わされてしまった。客観的に見て微妙なヤツであることには変わりないのだが、そういう気づきがあったことは正直に表明せざるを得ない。

 轢殺に対するこだわりも感じた。悪徳警官に騙された主人公。しかし主人公の必死の抵抗もあって形勢が逆転し、悪徳警官どもを銃で脅しながら、腹ばいになって頭の上で手を組め!とかやっている場面がある。
 銃を構えた主人公の言うままに、見通しの良い直線道路の脇に転がされる悪徳警官。どうしたものかと思ったら次の瞬間!突如黒い車が現れ、悪徳警官をみな轢いて通過していくではないか!やった~!!
 この場面は笑ってしまった。特に名作と言われるサメ映画の捕食シーンのように、芸術的なバカ轢殺シーンだと思った。第一作のキャプションに書いてあった陸のジョーズって、こういうことかぁ~!などと思えてしまう。
 この場面を見た私は、冒頭に引用した悪の金八先生風の名台詞を思いついた。轢殺の轢という字はね、車が楽しいと書くんです。つまり、進行方向にある何かを踏み潰して通り過ぎる行為は、車にとって楽しいってことです。実際楽しそうなので、機会があれば確認して頂きたい。

 ここまで褒めてしまったが、『ロード・トゥ・リベンジ』が駄作であると評価されている事実に異論はない。
 前作のキャストを、黒い車を悪魔的に改造する地獄のチューナー的なじいさんの役で登場させたとしても、そういう小細工が逆に腹立つわ!と思えてしまう。
 特に嫌だったのが、『クリスティーン』へのオマージュっぽいシーンであった。『ザ・カー』の黒い車はクリスティーンより先輩なのに、後輩のネタを使っちゃったりするのはどうなんだ!?などと、心に引っかかる感じがしてしまう。
 そんなわけで、一部分は良かったけど、全体的にダメな感じは否めなかった。『ロード・トゥ・リベンジ』、あと30年はやく作られていてほしかった。

殺人自動車映画の歴史

 ポゼッスドカーの映画、だいたいこれくらいしか見つけられんかった。もっとあるのかもしれんが、これらが主要な作品ということで、パワポにまとめてみた。

主要な殺人自動車映画まとめ

 ここまで見ていて分かったことがある。

 殺人自動車映画の類型②と③を見ていくと、さらに小分類ができる。a宇宙人・生き物系列とb悪霊・悪魔系列である。数少ない②の『処刑ライダー』すら、流れ星から生まれた悪霊なのである。見事にこの2つ程度に分類できてしまうので、この界隈の収束され具合を感じることができる。

 『ナイトライダー』のK.A.R.R.の仲間ってことでcディストピア・テクノロジー系列とかもありそうに思えるのだが、そういう作品にあたる②と③はまだ見たことはまだないので、理論上存在するだけとしておく。 

 登場年代順に並べていくと、この2つの系統が絡み合い、他ジャンルの作品と悪魔合体*13を繰り返しながら新しい映画が生み出されているように見えて面白かった。

40〜70年代 殺人ブルドーザー登場

殺人ブルドーザー登場

 70年代。なぜか30年前の小説『殺人ブルドーザー』が実写化される。調べきれないので、今回は『殺人ブルドーザー』が最初のポゼッスドカー映画ってことにしておく。
 死体をブルドーザーで掃除する場面は、戦争映画でたまに見る。そういう怖いイメージがある重機なので、ブルドーザーはホラー映画向きの題材なのかもしれん。

 とか思っていたが、前年に公開された『ソイレント・グリーン』(1973)にも殺人ブルドーザー的な車が出てくる場面があるので、関連があるかもしれんとか考えた。チャールトン・ヘストンが殺人ブルドーザー的な車から逃げる場面が、ポスターになっていることを思い出したためだ。『ソイレント・グリーン』は人口が増えすぎた世界を描くディストピアSFなので、生きている人間がたいへん雑に扱われている。これはこれで怖い映画だった。

 ダッジ・チャレンジャーが暴走しまくる場面から類まれな栄養を摂取できた気分になる映画『バニシング・ポイント』(1971)にも、ブルドーザーが登場する。いちばん最初にである。チャレンジャーに乗った主人公のコワルスキーは、アメリカの最後の自由な魂だ!的なことが作中何度も何度も言われている。そのコワルスキーを止めるために連れてこられるのが、ブルドーザーである。

 そんな感じで、自由な魂vs権力が振るう暴力。この2つの作品くらいしか前例を知らんが、ブルドーザーは自動車が持つ恐怖の側面を象徴しているようにも思えてくる。私は天安門事件の戦車を連想してしまった。ただ、映画『殺人ブルドーザー』にはそういう思想は全く感じられないのだが。

 『理由なき反抗』(1955)と、同年のジェームズ・ディーンの死は重要である。後世のいろんなところにジワジワ効いていると思えた。『ワイルド・スピード』(2001)のDVDに入っていた特典を見ていたら、そこに『理由なき反抗』は走り屋カルチャーの源流といった内容が書いてあったからである。私としては、映画のチキンレースの場面よりは、ジェームズ・ディーンのライフスタイルの方が界隈に影響力あったんだろうと思う。

70年代 悪魔ブームの波及

悪魔ブームの波及

 1960年代末から悪魔ブームが始まった。ホラー映画界でも、悪魔映画の名作が作られた頃だ。アントン・ラヴェイはいろいろなB級ホラー映画にアドバイザーとして参加し、その中で最もメジャーな作品(多分)となる『ザ・カー』が公開される。

 1974年にスティーヴン・キングが長編小説『キャリー』でデビューした。2年後に映画化も果たす。

 で、この時期に公開された『アメリカン・グラフィティ』(1973)は、クリスティーンが生産されて間もない時代(1962年)のキラキラした一夜が凝縮された名作である。クリスティーンのベース車みたいな形の車がたくさん走っており、あの仰々しいスタイルが当時は普通にカッコよかったことが分かる。ジョージ・ルーカス監督は元走り屋とのことで、だからこういう車大好きな作品が作れるんだろうなと思えた。

 これを見ると、『クリスティーン』の時代設定である1978年にあの車をころがすと、どう異様なのかが分かってきた。

 『アメグラ』は、アメリカの無邪気な時代を懐古する映画である。人種問題も表面化せず、自動車産業も好調、戦争もない。それが、映画の最後にテロップで出てきたように混迷の時代に入っていく。ジョージ・ロメロが『ゾンビ』(1978)でやったように*14スティーヴン・キングは『クリスティーン』でそんなアメリカの時代の変化やなんかを、自動車にフォーカスしてストーリーにしていったんだと思った。

 ここで唐突に『ゾンビ』の話になるが、謝辞にジョージ・ロメロの名前が出てくるので仕方ない。あとニューヨーク・タイムズの書評*15にも「ジョージ・ロメロが『アメリカン・グラフィティ』を撮っていたら、成果物として『クリスティーン』が出来上がるのではないか」とある。うむ!おんなじこと考えてる人はおるな!!そんなかんじで、私は『アメグラ』は『クリスティーン』の予習・復習に最適な作品といえると確信した。

80年代 スーパー改造車大集合

スーパー改造車大集合

 80年代には、世界に1台しかない最先端スーパー乗り物映画が数多く作られた。というか、ハイテクに対する期待や、乗り物の人気がストップ高を記録した時代だったんだと思う。なんかこう、バチクソに楽しいガジェットとしての乗り物を、無邪気に楽しめるような雰囲気に包まれた作品の勢いがすごい。

 スーパーカーも大人気だ。初代トランスフォーマーには、カウンタックの形をしたキャラクターが4種類も出てきたりする。こいつらはアニメの1話から活躍しているので、わーいカウンタックだー!ってキャッキャすることができる。

 凡例には載せていないが、トランスフォーマーシリーズはピンクのハイライトで識別できるようにした。トランスフォーマーについては、後述するようにポゼッスドカーどもと無関係とは言い切れない存在だからである。

 1983年には遂に『クリスティーン』が登場する。『ナイトライダー』のシーズン1から登場しているK.A.R.R.よりも後輩だったようだ。クリスティーンは、このようなイカすスーパー乗り物ブームの影の存在なのだろう。古臭い車がモンスターになり、哀れな若者をカモにする。ハイテクなスーパー改造車に対して、生物のような時代遅れの車という存在は、とても気味が悪いなと改めて思った。

 ここまで見てくると、ユニバーサル社とスティーヴン・キングがこの界隈を牛耳っているような錯覚を覚えてしまう。しかし多分気のせいである。

90〜00年代 ほぼ潜伏期間

ほぼ潜伏期間

 90年代は、③映画不毛の時代である。これはというメジャーな作品が無い。せいぜい『地獄のデビル・トラック』のリメイク*16が作られた程度である。カーアクション映画自体は人気だったのだが、ポゼッスドカーはすっかりハリウッドの表舞台から姿を消したような状態だとおもう。

 そこで『湾岸ミッドナイト』(1992〜2008)である。ポゼッスドカー日本代表と言ってもよさそうな”悪魔のZ”が、マンガ媒体で登場したのだ。作品自体も序盤はホラー風味の強い場面が要所要所にあり、これまで紹介してきた作品からの影響を強く感じられる。240Zは70年代に北米で大ヒットした日本車なので、それがバブル崩壊の年にポゼッスドカーになって出てくるのは、何となく理にかなっている気がする。

悪魔のZの先輩たち

 ゼロ年代初頭にワイスピシリーズが始まる。マッスルカー大好き野郎ドムとGT-R大好き野郎ブライアンの友情が、ゼロ年代以降のカーアクション映画界をけん引する。のだが、第1作『ワイルド・スピード』(2001)の最初のレースには、ドムがRX-7に乗って出てくる。それほどにみんな日本車に乗っているのが、衝撃だった。今思い出してもびっくりだな。

 私は日米貿易摩擦が激しすぎて、アメリカでは日本車がぶっ壊されているというニュースを見て育った世代である。こういうのを見せられると、確かに時代が変化しているらしい感じがする。そして、この時代には③の映画が明らかに衰退した。

 一方トランスフォーマーは、着実にシリーズ作品を作り続けていた。2007年からは、2~3年おきに新作の実写映画が作られるようになった。

10〜20年代 80年代リバイバル

80年代リバイバル

 2010年代、空前の80年代ブームが来た。これは前回の記事に詳しく書いたが、80年代に流行した車もまた人気が再燃した。

 とにかく80年代の映画の続編やリメイクが作られたし、時代設定が80年代の完全新作映画も数多く作られた。トランスフォーマーの『バンブルビー』(2018)*17もそういう流れで出てきた作品だと思う。そして『バンブルビー』には、明らかに『クリスティーン』オマージュと思われる設定がある。ひょっとしてトランスフォーマーはポゼッスドカーから生まれ、その記憶を継承してくれる存在になったのではないか?とか思えてくる。

 80年代ブームに湧き上がった近未来SF『レディ・プレイヤー1』(2018)のレースのシーンには、クリスティーンの形をした車がモブとして出てくる。この映画は既存のサブカルチャーを取り込んだアバターが無数に登場するため、そのうちの一台としてである。また、何の因果かスタンリー・キューブリックの映画『シャイニング』(1980)が作中の重要な位置に据えられている理由も考察のしがいがあると思う。『シャイニング』は『クリスティーン』と共通するテーマを扱った作品であると、訳者のあとがきには書いてあった。

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 ここで『HYBRID』(2010)というC級ホラーがぽっと出てくる。これは「殺人自動車 映画」でググって出てきた記事*18のおかげで、その存在を初めて知ったやつである。
 記事が長くなりすぎるので詳しく紹介できないのだが、プリウスは出てこなかったことは報告しておきたい。ただ、『ザ・カー』へのリスペクトは大いに感じられた。もしかしたらこの『HYBRID』の存在が、『ザ・カー:ロード・トゥ・リベンジ』の制作の動機に微粒子レベル程度の影響を与えたかもしれない。

これからのポゼッスドカー

 このように、ポゼッスドカー映画は衰退しているといえる。この狭〜い界隈の中でしか語られないような作品が出てきたとしても、細々と命脈を保っていると言える程度の話である。ポゼッスドカーの本場は米国であり、米国の自動車産業の動向が大きく影響している。特に、衰退し始めたとされる時期には③がポツポツと出てきたが、最近は静かだ。これがどういう意味なのかはコメントしかねるが、なんか悲しくなる。

 あと、車が好きな人のためのフィクションが衰退しているからかもしれない気はした。
 世間の自動車に対するクソデカ感情が少なくなるにつれ、その自動車の中でもさらにキワモノなポゼッスドカーの数が減っていくのは仕方のないことなのだろう。

 その中で、ワイスピとトランスフォーマーはめちゃくちゃ頑張ってると思えてくる。トランスフォーマーの新しい映画『トランスフォーマー/ビースト覚醒』(2023)は『バンブルビー』の続編で、時代設定は1994年である。『激突!』みたいなトラックが敵キャラになって出てきたりするので、ここは絶滅危惧種の保護区域か!?と思った。
 今後期待するべきものとしては、『ナイトライダー』の新作映画が作られるらしい件だろう。この、旧車は人気って感じの界隈の空気に、しんどいものを感じる。

 米国の自動車産業の動向が影響力大っていうんなら、電気自動車はどうなのか?と思えてくる。そこで①の『スノー・ロワイヤル』(2019)である。*19予告編にも出てくるが、この作品中のテスラ車の扱いがだいぶ酷いので笑ってしまった。カッコイイEVなど自動車として腑抜けみたいなモンであり、はたらく車のディーゼルパワーの前ではカトンボ同然といったメッセージを感じた。

さいごに

 殺人自動車についてリサーチを開始して以来、安直な予想をはるかに上回る作品と次々に出会ってきた。私はポゼッスドカーに魅了された。ホラー映画に出てしまったせいでただのクルマに変な設定が生えてしまう様子を観察できるのが、あまりにも楽しかったからだ。本当は『湾岸ミッドナイト』の源流を探る旅に出るつもりで始めたことだった。しかし想像以上にオモロい映画をたくさん見ることができて、自分の世界が広がったと思う。

 私は『ナイトライダー』の新作に、K.A.R.R.が出てくることを切に願うのだった。ポゼッスドカー界の未来は、お前にかかっている!と爆発四散したはずの車に向かって言わなければならないのは悲しい。でもまあ、復活するだろう。ポゼッスドカーは簡単には死なないものらしいから。

*1:過去の記事で紹介した『爆走!アクション・ムービー・ジャンキーズ』ではこの作品は「モンドなクズ映画」であり、好きだけど「だってお金かけてないじゃないですか」な作品と言われていた。デカバジェムービー至上主義を掲げる本なので、低予算なことが評価を下げているっぽかった。だが私はこういうのが大好きだ!

*2:posessedという言葉自体に、憑かれた(悪魔や狐などに)という意味があるので、そういうことである。

*3:M4Sはダッジのコンセプトカーだが、デザインしたのはクライスラーとのことだった。最後の最後の場面にしか"DODGE"と書かれた白いステッカーが後部に貼ってあるのが映らないことと比較すると、クライスラーのほうがスポンサー的な意味でご贔屓なんですねと思える。気になったので調べた。
Dodge M4S - Wikipedia

*4:キルドーザー事件 - Wikipedia

*5:Killdozer! (short story) - Wikipedia原作は第二次大戦中の工事現場が舞台で、最後は日本軍の空襲だか米軍の誤爆だかに遭遇してえらいこっちゃな話だそうである。つまり、爆発オチである。

*6:ザ・カー - Wikipedia

*7:このメロディは『シャイニング』(1980)の冒頭や『レディ・プレイヤー1』(2017)の当該シーンでも流れているので、映画オタクならすぐ調べて分かるやつである。

*8:あと『エクソシスト』のテーマ曲はいつ聴いても最高じゃな!CD持ってます!!

*9:KITT VS KARR - The EPIC Showdown | Knight Rider - YouTube

驚いたことに、公式アカウントが当該シーンをYouTubeで公開していた。

*10:この本には、ポゼッスドカーから逃げる方法以外にも様々なサバイバル知識が書かれている。必読の書である。

*11:この映画のサウンドトラックは、モータウンレコードから発売されている。クリスティーンが生まれた時代のデトロイトのブランド力を感じさせるこだわりっぷりだと思う。

*12:記事はこちら。シオドア・スタージョンは軍隊で重機に乗っていたそうなので、その経験が活かされたためか専門用語がバンバン出てくるテック系SFホラーになっているらしい。
Killdozer! – Schlock Value

*13:メガテンシリーズにもクリスティーンとザ・カーの黒い車が悪魔合体したようなヤツが出てくるらしいため、ここで悪魔合体ということばを使う意義は大いにある。

*14:『ゾンビ』は、ドーン・オブ・ザ・デッドという原題をカタカナにしたタイトルが有名なアレである。ゾンビは生前の習慣を繰り返すため、ショッピングモールに集まってくる。ショッピングモールに籠城した主人公たちは〜っていうあらすじだけでも絶妙に嫌な気持ちになれる、文明批判のストーリーで知られる。

*15:The Other Woman Was a Car

*16:ツタヤディスカスなら見れるけど、見なくても大丈夫ななやつだと思った。

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*17:バンブルビー』は80年代中頃にバンブルビーだけが初めて地球にやって来て、古ぼけたビートルになっていた頃の物語という設定のスピンオフである。
 バンブルビーがやってきた家の隣人は部屋の壁に『遊星からの物体X』(1980)のポスターを貼っていたが、バンブルビーがクリスティーンと同じことをやっても特に怖がらない。私が同じシチュエーションに遭遇したら、ビビリまくっておしっこちびるかもしれん状況なのにである。カーペンター作品のファンなら最新作はチェックしているだろうし、もしかしたら『バンブルビー』の80年代には『クリスティーン』という作品が存在しないのかもしれないと思った。
 バンブルビーを追ってきたデストロンのトリプルチェンジャーは、ずばり家族をないがしろにした男が買った車に擬態していた。この辺とかを見ても、『バンブルビー』は『クリスティーン』がフォーカスしなかった旧車趣味の陽の部分なんかも意識して作られた映画なんやろなぁと思えた。

*18:殺人車が暴れまわるホラー映画『Hybrid』(動画) | ギズモード・ジャパン

*19:この作品の意図は、原作である『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』(2014)を見ればよく分かると思う。監督本人の手でリメイクされただけあって、細かいところまでほぼ同じ展開になっている。クルマが材木で突き刺されるシーンももちろんある。

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BLセッションをするときは、必ずプレイヤーの地雷についてリサーチするんやで。せんかったら死ぬで。(ブログ主からのメッセージ)