Cobolerの実験場

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『スターファイター 未亡人製造機と呼ばれたF-104』その恐るべきしんどさ

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ハリーとベッティ。つい描いてしまった挿絵

今回の記事について 

 『スターファイター 未亡人製造機と呼ばれたF-104』(2015)という、ドイツで作られた映画がある。正確には、2時間ドラマとかテレビ映画的なものらしい。

 書いてある言葉から全ての内容を察することができる、すごい邦題だと思う。Starfighter – Sie wollten den Himmel erobernという原題は、直訳すると「スターファイター あなたは空を征服できなかった」になるらしい。しかしこのamazonのダサいサムネ画像…どうにかならなかったのか…。

 私はこの映画を見たが、あまりにも感情がぐちゃぐちゃになって考えが整理できなかったため、今回は特別に記事を会話形式にしてみた。会話形式にするためには、会話させるためのキャラクターが必要だ。というわけで妖精を召喚した。まずはヤツらのことを知ってくれ。

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今回はこいつらが映画を紹介するよ。よろしくね!

 ここまでしてでも、この映画の訴える力を知ってもらいたい。今回はそんな意図の記事である。なんせこの映画を見たのは、去年の今頃だからな。記事の準備に1年もかかってしまったのは、今回が初めてだぜ!

 ちなみにこの映画は、歴史を基にしたフィクションである。邦題の付け方からしてもうネタバレと言っても過言ではないだろう。それってつまり、この記事にネタバレらしい要素は無いじゃろ!と私は考えている。いやいやいや、そうでもないでしょ!?と思った人は、この辺りで読むのをやめた方が良いです。

会話開始!

トマちゃん

ウマちゃん、F-104が好きなんでしょ。

ウマちゃん

急にどうしたのトマちゃん。確かにウマちゃんはF-104Jが好きだよ…?銀色の円柱型にすごいレトロフューチャーを感じるし、ビンテージなSF小説の挿絵のように思えて、こんな形のジェット戦闘機が実際に飛んでいたなんて知らなかったから、やたら感動しちゃったんだよね。まあ、にわかファンなんだけど…

 めちゃくちゃ唐突な会話だが、トマちゃんとウマちゃんには上の図で説明した以上のたくさんの設定がある。一言でいうと、ウマちゃんは普通のボンクラで、トマちゃんは歪んだボンクラである。なので今回こういう話が始まっている。

トマちゃん

さすがウマちゃんはよく語るなぁ。この映画見ようよ。『スターファイター 未亡人製造機と呼ばれたF-104』!
 原題でググったら出てきたトレーラーがこれだ。この空に消えていきそうなタイトルロゴが出てくるタイミングが絶妙なので、ぜひ本編で見てください。

ウマちゃん

未亡人製造機!?あったなぁ…F-104にそんな重い過去!!なんだかものすごく嫌な予感がするよ!?っていうか絶対主人公が死んでヒロインが残されるやつじゃん!重いよ!戦争映画とは違った悲しみに満ちてそうだし、なんか中身の想像がつかなくて怖いよ!

トマちゃん

中身の想像ちゃんとついてるじゃん!見てから「辛かったね…」って語りあえば大丈夫だよ!

ウマちゃん

そういう問題かよ!でもF-104が主役の映画は気になる…!やっぱ見るしかないんか…!

めちゃくちゃつらい

それから2時間後…

トマちゃん

いやぁ、すごかったね。ウマちゃんのリアクションが。

ウマちゃん

も…もう、感情を揺さぶられ過ぎて辛いよ。それでもウマちゃんはF-104が好き!!とか、いやぁ戦闘機ってやっぱり良いもんですね…とかしか今は言えないよ!!

トマちゃん

どんだけ好きなんだよ…。

ウマちゃん

だってそういう「戦闘機大好き!」な演出も多かったじゃん!?冒頭、キーン!っていうジェットエンジンの音が聞こえてさあ、軽快なオールディーズなんか流れてちゃってさあ、60年代です!って雰囲気出しながらF-104が曲芸飛行やってるの。「この音サイコー!」とか言いながら見学者がワイワイしてたら…!ウッ…!!

トマちゃん

開始3分後に、4機いっぺんに墜落すると辛いよね…。

ウマちゃん

あのオープニングには悪意がこもってるよ!!

トマちゃん

この映画、ドイツでテレビ映画として作られて、ゴールデンタイムに放送されたって書いてあるね。*1

ウマちゃん

オープニングでキャッキャしてたら、いきなりお通夜ムードに突入するんだから!ここでチャンネル変えた人絶対にいたでしょ!!

トマちゃん

まあ確かに、オープニングに出てきた男連中が、このあと何人生き残るかな?って感じだったね…。

ウマちゃん

しかも、平和な日常(死亡フラグ)!F-104が飛んでる!墜落!!お通夜!葬式!!の繰り返しでメンタルがドッと疲れた後、主人公が死んで、嫁が訴訟起こすまでに苦労に苦労を重ねるんだからね!?もうなんか、飛んでるF-104のことだけ考えるようにして後は忘れた方が幸せなんじゃないかと…ウウッ…!

トマちゃん

よしよし。最後まで辛い映画だったよねえ。

ウマちゃん

この、無邪気に喜んでいたらいきなりお通夜!っていうのがすごくキツかったんよ!何だろうこの…逆『風立ちぬ』みたいな…。『太陽の帝国』みたいな…?まだ見れてないんだけど…

トマちゃん

今シレッと見てない映画に例えたな?まあいいわ。それで…

ウマちゃん

戦闘機は人殺しの道具なんだけど、わしらはそんな戦闘機が大好きなんじゃ!っていう業を背負っているってのは分かるんだよ。でもこの映画のF-104は、何にもしてないのにいきなり故障して墜落するから!無辜のパイロットが死んだ!っていうショックだけがあるの!つらいよ!!ラドン*2にやられて墜落したF-86パイロットの血に染まったヘルメットを見てるあのシーンとはわけが違うの!!!(机を叩きながら)

トマちゃん

ウマちゃん落ち着いて!!

陰謀が渦巻きすぎてる

 

トマちゃん

要約すると、まず西ドイツはF-104を900機も買って飛ばして、200機以上墜落してパイロットが100人以上死んでいる。F-104は墜落しても原因がろくに調査されないし、報告書にも嘘だろって話ばっかり書いてあるし、それを告発したら、スパイ容疑をかけられたり変な噂を流されてしまう。仕方ないので、被害者の未亡人が集まってロッキード社を訴えたら、謝罪はしないけどカネだけは払うと言われて激おこ!みたいな話だった。

ウマちゃん

カネだけは貰ったけどさぁ、ぜってー許さねえからな!っていう固い意志を感じたよね…。ロッキードとの示談交渉のシーンで、ベッティが着てた衣装が派手なアニマル柄っていうのがもうアグレッシブすぎて、ちょっと良かった…。

トマちゃん

てかさあ、示談交渉のシーンに「イタリアやオランダでは買収したくせに!」って台詞あるけど、ここ、ヤーパンって言ってない?「イタリアやオランダや日本で買収した」って言ってるよね…?字幕どうなってんのこれ。

ウマちゃん

ンアアアア!!!

トマちゃん

どうしたのウマちゃん!?

ウマちゃん

やめて!自衛隊のF-104Jはスターファイターじゃなくて"栄光"だから!MADE IN JAPANだし西ドイツほどすごい事故は起こしてない*3から大丈夫!!とか思って対岸の火事だと認識しようとしていたところに「お前らも当事国だからな!」って迫ってくるのやめてぇ!!

トマちゃん

そ、そうか!こうやって発狂する人が出ないように、字幕の人が気を利かせてくれたのかもしれないんだね!ロッキード事件的にはイタリア、オランダと来たら次は日本だから、お察しな内容なんだけど!てか対岸の火事って認識はさすがにひどくない!?

ウマちゃん

あまりのしんどさにメンタルが耐えられないんだよー!ウマちゃんの情緒はもうぐちゃぐちゃだよ!!なんでここで偶然にも敗戦国が3つ揃って話題に登るの!?無性に悲しくなるわ!ンアアアアーン!

トマちゃん

多分そういう悲しみは意図してないと思うよ!?怖いよこの映画!ヤブをつついたら、蛇がやたらたくさん出てきたみたいで怖いよ!!

見せ方にものすごくこだわっている

 

トマちゃん

この映画って、スターファイターっていうタイトルから「男の子って、こういうの好きなんでしょ…?」っていう雰囲気が発せられてるんだけど、後半から完全にサスペンスだったよね。国家的陰謀に巻き込まれて四面楚歌!って感じの、ありきたりなプロットだけど…これがなんと実話ベースというから怖いね。

ウマちゃん

しんどいよね〜!!!

トマちゃん

しんどいねー…。

ウマちゃん

ウマちゃん的には、タイトルからして悲劇の予感しかしなかったから、何のミスリードも感じなかったんじゃが…。

トマちゃん

この事件を若い世代にも伝えなければならない!っていう使命感から、この作品は作られているはずだから。色々な楽しみ方ができるように、すごく頑張って脚本作ってくれてるんだろうなぁ…って思ったよ。

ウマちゃん

軽快なオールディーズのせいで、葬式以外のシーンはかなり雰囲気が良くなってるからね…。

トマちゃん

ザッピングして途中から見てた人なら、冷戦時代が舞台の恋愛ドラマなのかな?って騙されたんだろうなー。

ウマちゃん

そして墜落する。

トマちゃん

それな。

ウマちゃん

確かに、飛んでるF-104を期待してる人たちにも、めっちゃアピールしてくれてるんだよね…。だから感情移入の仕方がバグって、ウマちゃんみたいになるひとが出てくるのか…。トマちゃんからサスペンスって言われるまで、そういうとこに全然気が付けないくらい混乱してたわ。

トマちゃん

そんなにも…?とりあえず落ち着いてくれて良かったよ。

ウマちゃん

とにかく、あっけなくF-104が墜落して、次々に葬式のシーンになるのが、自分が思ってる以上にショックだったんだわ…。

トマちゃん

そういえば事故原因を自分たちで調べようって言って、家にF-104のトリセツみたいな資料を持ち帰ってる辺りに、すごく60年代っぽさを感じたよ。

ウマちゃん

出たなレトロブーマー。そこが気になるのか。情報の扱いが若干ザルな感じが昔っぽいのは分かるけど、こうしてウマちゃんが苦しんでる横でそういう顔しちゃうんだ!?あり得ないよ!!

まとめ

 

トマちゃん

これは国家的な、国際的なすごい陰謀なんだよ!!パイロットはその犠牲者!っていうメッセージが、ひしひしと伝わりました…。『トップガン』みたいなエンタメ路線を期待した視聴者の心を初っ端から折って、こういう映画だからな!って釘を刺してくるオープニングも、そういう意図だよね。

ウマちゃん

一言で言うと、闇のトップガンじゃった。ミリオタたちよ!ドイツ人の怒りを知れ!的なメッセージがドラマの間から溢れてきて、絶望が心臓にブッ刺さるみたいな…。クトゥルフ神話TRPGに例えるなら、SAN値がごっそり減った後にアイデアロールに成功して一時的狂気に入って後遺症まで残るような映画じゃった…。

トマちゃん

クトゥルフ神話TRPGの話はやめなよ。

ウマちゃん

要するに、不安定になった精神を安定させるためにF-104Jマニアになってしまうんです!!またはF-104恐怖症になる!

トマちゃん

ウマちゃんはマニアのほうなんだね…。トマちゃんの心にいちばん刺さったのは、あの「俺もしかして、死亡フラグ立ってる…?」って感じで、機体を点検してるシーンかな。

ウマちゃん

実際死亡フラグだったやつじゃん…。とりあえずこの映画を見て無邪気な心が折られたけど、まだF-104のことが好きなんです…って謝りたくなるような映画でした…。


 こうしてトマちゃんとウマちゃんはエンタメ的な「しんどみ」では片づけられない辛さを、文字通り痛感したのであった。おわり。

*1:Starfighter – Sie wollten den Himmel erobern – Wikipedia
ウィキペディアの記事。ドイツ語だけど、Chromeの翻訳機能を使えば普通に読める

*2:『空の大怪獣ラドン』(1956)のこと

*3:F-104 (戦闘機) - Wikipedia
この記事の「日本」の項目を見ると、それなりに事故を起こしていることが分かるが、さすがに西ドイツほどの数ではない。

BLセッションをするときは、必ずプレイヤーの地雷についてリサーチするんやで。せんかったら死ぬで。(ブログ主からのメッセージ)