greetings programs!
はじめまして、コボラーです。『トロン』の話をしに来ました。greetings programs!っていうのは、『トロン』世界で使われている「レディース・アンド・ジェントルメン!」みたいな意味の言葉です。
いやいや、コボラーって一般名詞ですやん!なんでそんな紛らわしい名前を、色んな所で使うハンドルネームにしたん?
うるせえ!!わしが元々居たコミュニティではコボラーなんて言葉は誰も知らなかったから、何となく名乗っちゃったんだよ!
というわけで、先に身の上話をさせてほしい。
はてなのアカウントを作った当時、私は現役コボラーだった。コボラーという言葉について一応説明しておくと、COBOLというプログラミング言語を使うプログラマーのことである。javaとかRubyとか色々なプログラミング言語があるが、使い手のことを指す名詞があるのは、多分COBOLだけだと思う。知らんけど。
COBOLは世界最古級のプログラミング言語で、事務の仕事用として今でも銀行や役所で使われている。そして古すぎて時代遅れなので、しばしばバカにされる。しかし、しぶとく現代まで生き残るCOBOL製のシステムをメンテナンスするため、定年過ぎて引退したコボラーの代わりに、新卒採用の新人教育で汎用機とCOBOLを仕込む会社は21世紀にも実在した。その現場こそ、私が新卒で入った会社だった。
現在私は、プログラマーを引退している。引退の理由としては、長期出張中に心身の具合が悪くなったことと、コボラーとして食っていくには長期出張か転勤以外に選択肢が無いと分かったためだ。今は別の業種で働いている。
だがこんなハンドルネームにしてしまったせいで、私に付与されたコボラー属性はいつまでもついて回った。なので、世間でCOBOLとコボラーがバカにされている現場を見る度に、地味に悲しくなることは多かった。引退後もそういう気持ちだけはあった。
いや名前変えろよとも思ったのだが、面倒なので変えなかったせいでもある。自業自得。でもまあ別にええんよ。汎用機専門でやっていたレガシー知識があるので、TRPGをやる分にもちょっと役には立っているし。昔のトーキョーN◎VAのサンプルシナリオとか…あれもトロンの影響をちょっと受けているし…。
現在
トロンの話を始めよう。
ある日私は怒りのあまり会社を早退して、その足でツタヤに行った。
コロナ禍は私のメンタルにも、ハンパないストレスを与えていた。情緒が不安定になり、本来は楽しくてやっている趣味のことでも、少しでもやらされ感を感じるとヤダ!無理!!と言って放り投げた。
もちろん仕事が捗るはずもなく、この日は梅雨の間の低気圧で受けたダメージが暑さのせいで回復しきらず、マヂ無理限界に近い状態だった。そしてムカついたので、早退した。
当時具体的に何にムカついたのかは覚えていないが、知らん間にTポイントが800点くらい溜まっていたことに気が付き、その使いみちに悩んだ結果、ワクワクがイライラに変わっていった記憶がある。なので一気に消化してスッキリしたかったとか、そんな理由だったと思う。我ながら、少々のことにイライラしすぎてて怖い。
新型コロナウイルスの感染防止のため長時間の滞在はご遠慮下さいという店内放送にイライラしつつ、選んだラインアップは『キャリー』(1976)、『ゴジラVSスペースゴジラ』、『トロピック・サンダー / 史上最低の作戦』、そして82年のオリジナル『トロン』だった。理由は特にない。
部屋に帰ると、ケースに記載されている本編の時間を確認した。長い映画を見ると疲れる。『キャリー』は長かった。3時間もある。傑作なんだろうけど、今は疲れているからダメだ。そんなことを考えながら、唯一本編の時間が2ケタだった『トロン』を選んだんだと思う。ただそれだけの理由だった…のだが…。
以下、途中までのネタバレがあります。
圧倒的映像
『トロン』、とりあえずコンピューターの中の世界では、プログラムが人の形をしているという設定だけ分かっておけばいい。トロンは、主人公フリンの元同僚アランが作ったセキュリティ・プログラムの名前である。このトレーラーのサムネイルにいるのはサーク。敵キャラだ。
TRON Original Movie Trailer (Remastered)
まず映像がすごい。シド・ミードとメビウスという巨匠が関わっているだけはあり、とてつもないセンスが映像から惜しげもなく放出される。80年代チックとかそういうレベルを超越したビジュアルは、我々にとってもまだ早すぎる感じがする。
しかしそれ以上に、設定が分かりすぎた。何かが出てくる度に「あ!それはこういう事ですね!めっちゃ分かる〜!」と分かってしまうのである。しかし、めくるめく映像美に圧倒され、次のシーンが始まると前のシーンで自分が何に感動していたか完全に忘れた。その結果、96分後には自分が何に興奮しているのか全くわからないまま、『トロン』という映画のファンになっていた。
私の脳は異常に活性化し、脳汁がドバドバ出るのを感じた。しかし、何が私をここまで興奮させるんだ!分からねえ!分からなさすぎる!私はすぐブルーレイを買って、何度も見返した。今回の記事は、当時興奮した設定などの内容が、自分の中でまた分かってきたときの興奮を書き出す試みである。興奮しすぎると文章を書きたくなるので、仕方がない。
具体的にグッと来たとこ
頼りないプログラム
エンコム社のメインフレームは、MCPという悪いシステムが支配している。MCPは国防総省やソ連のコンピュータを侵略しようとして、まずは近所のシステムへのハッキングを繰り返している。こうして外から連れてこられたプログラムの台詞を聞いて、私は分かってしまった。
クロム「何かの間違いだ 私は貯蓄貸付組合で働いているんだ ビデオゲームなんかできない」
衛兵「スポーツマンに見える 大丈夫だ」
クロム「冗談だろう ちょっと走ったらすぐに息切れだ それにこんなことをしたら、私のユーザーが怒るぞ」
分かる。こいつはCOBOLで書かれた事務プログラムに違いねえ。このぽっちゃりした頼りない感じ、いかにもCOBOLのダメプログラムっぽさを感じる。中身はGO TOの使いすぎで、スパゲッティなのではないか。否応なく妄想がはかどる。この記事は終始こんな感じの妄想なので、今の時点で筆者が哀れに思えたら、これ以降の文章は無視して忘れてほしい。いや本当に!
ユーザー信仰
プログラム達がユーザーについての考えを主張しているのを見て、また分かってしまった。
ラム「ユーザーを信じているか?」
クロム「当然だ 我々を書き込んでくれた」
ラム「だからここへ来た」
さっきダメプログラムと断定したが、その考えは1分後くらいに変わった。こいつ、ダメなりに作者のことは信用している。なんか嬉しいじゃねえか。しかし、隣の部屋のシュッとしたプログラムは、ユーザーを信用できなくなっているらしい。
思えば私も、結局一人前とは言えないダメプログラマーだった。プログラムに人格があるなら、恨まれていることも絶対あるだろうと思った。改修に関わったシステムで本番バグを出して、レビュアーと一緒にやんわり説教されたこともあるしな。ユーザーは信用ならない、とか思われていても仕方ない気がする。
何はともあれ、プログラム達がユーザーの話をする場面は、私のメンタルに揺さぶりをかけてきた。
MCP「実世界から私を脅迫した だからお返しに引きずり込んだのだ」
サーク「しかし、我々を創り出したのはユーザーだ あなたもそうだ」
ユーザーは我々を創り出しました、と字幕には書いてあるが、wrote usと言っている。プログラムはユーザーがWRITEしたものだと、念を押している。ここに製作者達のこだわりを感じる。
そして、この映画ではプログラム達は、自分達がユーザーによって書き込まれたことに、少しは義理を感じてくれているという設定のようだ。
サーク「ゲームでシステムに尽くせ ユーザー信仰を公言する者は、訓練を受けても結局は消去される しかしそのバカげた妄想を捨てる者は、MCPのエリート戦士に任命される」
しかしMCPは、そんなプログラム達の「ユーザー信仰」を捨てるように迫る。そしてMCPの側に付かない者は、自社製のゲームでデスマッチをやらせると。キリシタン弾圧みたいな話になってきたぞ!
MCP、この…ド外道め!!許せねえ!!!と勝手に熱くなってしまう。自分がこの映画を見てここまでエキサイトできる人間だったなんて、知らなかった。びっくりだ。
なんかそんな感じでこの映画、設定のツッコミどころは山ほどある。しかしそれが気にならないくらい、矛盾の先にある世界で起こっている事件が一大事なんだと感じられる。名作あるあるだ。
ラム
隣の部屋のシュッとしたプログラムこと、ラムの台詞を聞いて、またまた分かってしまった。
フリン「ラム、前は何をやっていたんだ?」
ラム「経理プログラムだ 大きな保険会社にいた 人の将来に役立っていた 保険には入った方が良いぞ」
お…お前!お前もCOBOLだったのか!!この年代で経理なら間違いなくCOBOLじゃろ!!私はまた、妄想的な直感で分かってしまった。
しかもデスマッチをやらされながら生き残って「強くなければ生き残れない」とか言ってる!お前はッ…!なんて…ポテンシャルが高いんだッッ!!!きっとインデントもきれいに揃っていて、メンテナンスもしやすいんだろうな。素晴らしい!!!
そして、人の役に立っているという話をしているところに好感度が高まる。そうか…君は仕事にやりがいを感じていたのか…!えらいぞ。えらい…。いかん、書きながらウルッとしてしまった。
ラムの設定はどうにでもできたはずなのに、戦略空軍じゃなくて、あえて経理プログラムになっている理由が分かった気がした。いや、知らんけど!知らんけど私はなぜか嬉しいんじゃ!!
このように私の妄想は冴え渡り、エキサイトする一方だった。そしてラムを推していこうと思った。がんばえ〜〜〜〜〜〜!!!
プログラムには心が込もっている
ディリンジャーとギブス博士の会話を見ていて、分かってしまった。いや、知ってしまった。
ギブス博士「社のシステムは私やアランが作り上げた 全プログラムには我々の心が込もっている」
ディリンジャー「ウォルター、もう遅い 精神論はまたの機会に」
そんな!心が込もっているだなんて知らんかった!私は自分の仕事のことのように感じて、やたら喜んだ。
確かに、仕事中わけもなく涙が止まらなくなったり、何もしてないのに鼻血が出たりするようなデスマーチも経験した。毎晩夜中の3時まで残業してたら、そういう状態にもなるわな!だから血も涙もあるプログラムが…書けるのかもしれない。いや、そういう意味じゃねーよ。知らんけど。
知らんけど、めっちゃ分かってしまった。良いこと言うなぁこの映画。あの超しんどかった仕事をねぎらってもらえたみたいで、グッと来るわ…。
この台詞は、トロン世界の重要な設定である。プログラムが持つ意志は、作者の意志でもある…ということだ。そういうことか。なるほど!
ただ不正アクセスがあったので全アクセスを停止するというのは、正しい判断だと思える。苦情が来ても、突っ返すしかないんだよな。
トロン
そしてトロンである。めっちゃ強いのに、飾らない素朴なキャラである。そんなトロンが「ユーザーのために戦うぞ!」と言っている気がしたが、普通に気のせいだった。モブの台詞だった。
フリン「あれは?」
モブ「トロンだ 彼はユーザーのために戦っている」
トロンがあまりにも健気なので、都合の良い記憶が生成されていた。何回か見直したけど言ってなかった気がする。いや、ユーザーのために戦っているのは事実なんだけど。
入出力タワーでアランと交信するシーンは、なぜか感動した。トロンはユーザーを信頼している、それが分かってなぜかめっちゃ嬉しかった。
多分ね、ユーザーが入力したコマンドは、プログラム達に分かりやすい言葉に翻訳されるわけよ。それ自体は普通のことじゃろ。でもな、この映画ではそれが視聴者にも分かりやすく、まるでユーザーが神様みたいに見えるように演出されているんだと思うんよ。そ、そんな大げさな!照れるじゃねえか!…私は更に妄想ぢからをたくましくした。
私は新人研修中に帳票プログラムを作って、例によって無限ループさせちゃったことがあるんだけど、あの時のプログラム君はどんな気持ちで停止コマンドを待ってたんだろうなー…とか思った。あの汎用機、停止コマンドはセンターコンソールでしか受け付けていかなかったから、全力ダッシュで入力しに行ってたんだわ。懐かしい。そんなことを思い出した。
おわりに
ラム「私のユーザー ユーザーユーザーユーザー…」
結末まで語るのはやめておく。本編を見てください。
しかし本当に、個人的にめちゃくちゃ刺さる映画だった。元コボラーとして、というか元プログラマーとして報われた気持ちになれた。妄想だけど…。
あと、いい意味でエキサイトしたおかげでイライラは吹っ飛んだが、考察と言う名の妄想がはかどり過ぎて、通勤中に交通事故を起こしそうだった。さすが30年後に続編が作られる映画。いかにも少数精鋭のオタク達が、細く長く推したくなるような作品だった。10年ぶり3作目の映画も決まったらしいし!
こんな記事なら見つけたくなかったけどな!!!も…もうなんか、タイトルの時点で怖すぎて読めない!記事のURLまで大概ひでえ内容だ!!やめろ!やめてくれ…(いろんな意味で)
そんなわけで、まだデカすぎる感情がおさまる気配がないので、次の記事を書くと思う。書くしかねえ…!
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