Cobolerの実験場

書きたくなった文章を置きに来る場所

90年代のオタクが推奨したアクション映画を見る

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つい描いてしまったファンアート

爆走!アクション・ムービー・ジャンキーズ

爆発!炎上!崩壊!沈黙!

今、アクション映画が途方もなく熱い!

男の夢想が結実した新世代デカ・バジェ・ムービーの魅力と魔力を徹底解説!

 予算=バジェットがデカい。つまり超大作のことを、この本の中ではデカ・バジェ・ムービーと呼ぶ。

 洋泉社映画秘宝ムックがあったりしないかな~と思って古本屋に行ったところ、こんな本をゲットすることができた。『爆走!!アクション・ムービー・ジャンキーズ '90sアクション映画観戦ガイド』!(以下、略してBAMJと表記する)なんせ、発行されたのが1998年の5月。むしろ、映画秘宝ムックよりもこっちの方がお宝ではないか。いや、そうだ。

 この胡散臭くて暑苦しい表紙をご覧いただきたい。ほんとに90年代か?それ以前の雰囲気しか感じないんじゃが…と少し迷ったが、やはり買わないわけにはいかなかった。90年代のアクション映画を観戦!である。気にならないわけがない。書いている人たちも、映画秘宝で見かける名前がちらほらいるし、多分おもろいやつだ。

 しかし、それだけが魅力ではない。古い本ならではの楽しみ方があるではないか。目次を見ながら内容に納得しながら買って帰ったわけだが、目次を見るまでに私はこんな期待をしていたわけである。

  1. 90年代にメチャクチャ活躍したけど、最近全然名前を聞かない映画人の話が載っているのではないか?
  2. 90年代末時点の未来予測は、2021年時点でどの程度当たっているか?
  3. 最近すっかり落ちぶれた感じのアクションスターの、全盛期の熱いレビューが見られるのではないか?
  4. 90年代の映画オタクが熱い視線を注ぐ未知の作品が掲載されているのではないか?

 書き出してみたらこうなる。似たような感じの項目が並んでいるが、私の期待は主に④の未知の作品にあった。

 前回の記事では、ほかの記事のランキングをざっくり紹介するにとどめたが、今回の記事はどう書けばいいか迷った。とりあえずBAMJの中で章タイトルになっている作品を中心に、あとは私にとって興奮度高かった90年代の映画を入れて10本くらい紹介していきたいと思う。幸いにもこの本で大きく取り上げられた作品は、ド定番というよりは未知の作品が多かったので、当時のマニアの好みが垣間見られて良かった。いやこの本自体にはシュワちゃんとかジャッキーとかスタローンみたいな超王道アクションスターの記事ももちろん掲載されているのだが、やっぱ未知の作品に興味が集中してしまったため、けっこう偏った記事にはなってしまったんだけど…。

 なおこの記事の各映画の章タイトルは、BAMJの章タイトルやアオリ文から作成した。

私にとって興奮度高かったセガール映画

 最初は「私にとって興奮度高かった映画」としていたんだけど、紹介する作品がセガール出演作ばっかりになってしまったので、もうセガール映画のセクションにした。

 あらゆる意味で偏差値の低い映画ファンを魅了しまくったセガール。「強い男」から「いささか強すぎて無敵の男」へと進化した先には一体何が待ち受けているというのでしょうか?(20ページ)

 スティーヴン・セガールの記事はBAMJの最初に掲載されている。セガールが1998年の界隈で最も重要なアクションスターだったんだと、とてもよく分かる。まさに③である。申し訳ないけど③としか言いようがない。

 セガールTRPG*1のセッションに参加させて頂いた際に参加者の方々と意見が一致したのは、セガール映画は90年代までの作品だけ見ておけばOKという話だ。90年代以降の作品はクオリティが微妙で、アクションシーンは減るしそもそもセガールがあまり出てこなかったりする。なので、90年代までの作品で十分。ただしセガールが珍しく敵キャラで出てくるロバート・ロドリゲス監督の『マチェーテ』(2010)はメッチャおもろいので例外!という感じである。

 セガール映画とは、セガールが主演する、セガールがやたらめったら強い映画を定義する言葉である。BAMJはセガール映画の主人公像を一言で「能ある鷹は爪を隠す。が、一旦爪を出したら全てを破壊し尽くすまで再び隠さない」と表現した。

セガールって誰にも頼りませんからね。普通は誰かに頼りますよ、どんなアクション映画でも。それにどんなに強い奴でも敵に捕まったりしますよ。ちょっとミスったりします。拷問とかされちゃったりします。女の誘惑とかに負けてやっぱり捕まったりしますよ。でも、しませんね、セガールは!いつも天下無敵で悪を蹴散らし続けてます。1回も敵に捕まってませんね。初期の作品では1回だけ捕まったことありましたけど(91ページ)

 この1回だけ敵に捕まるってのは、デビュー作にして初主演作である『刑事ニコ 法の死角』(1989)のことだろう。敵に捕まったあと、敵の能書きを全部聞いたあとで自らの怪力によって拘束をバリッッと破り、華麗に脱出するという無敵っぷりがあまりにも衝撃的だったのでよく覚えている。どんなアクションスターにも、下積み時代にチョイ役で出演した作品くらいあるだろう。しかし、セガールは映画初出演の俳優初挑戦にして、こんな映画に出てシャロン・ストーンと共演しているのだ。この時点で、もう尋常ではない男なのである。

 そんなセガールについて、アツい解説つきでおすすめ作品を厳選してくれたBAMJ。私にとってもきっと面白いに違いない!と確信して未見の作品をエイヤッと見てみた。

獣気全開!!『沈黙の要塞』(1994)

 巨大石油会社の消火技師フォレスト(セガール)は、会社とイヌイット族との、採掘を巡る争いに巻き込まれ重傷を負う。イヌイットの女性マースー(チェン)に助けられた彼は、巨大石油採掘プラットホームを舞台に、地球環境お構いなしの冷徹な社長(ケイン)に戦いを挑んでいく。(ツタヤディスカスより引用)

 で、最初に見たのが『沈黙の要塞』である。沈黙シリーズは『沈黙の戦艦』(1992)の次に何を見たらいいのかわからない初心者だったので、BAMJに掲載されていた壮絶なあらすじを読んだのがきっかけで今回初めて鑑賞した。そして自らが製作・監督・主演したこの超入魂作で、セガールのすごさが極限に達していることを知った。この作品はだいたいどのサービスでも見ることができるし、BSならテレビ放送も期待できそうだ。

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 まずあらすじに書かれている、石油会社とイヌイットの争いに巻き込まれて重症を負う場面。ここまでは普通のセガール映画だった。しかし、犬ぞりに乗ったイヌイットの長老の前にシロクマの幻が現れたことで雰囲気が変わってくる。長老がシロクマの幻が現れたほうに行ってみると、そこにはセガールが倒れているではないか!シロクマの幻はセガールの、なんか霊的なパワーが吹雪の中に具現化した現象だったのだ。

 この作品は他のセガール映画と違い、何やらセガールの強さに霊的な裏付けがされている演出があり、それが異様な雰囲気を醸し出していた。長老に怪しげな薬を飲まされて幻覚を見るシーンでは、グリズリーと戦うセガールを見ることができる。ひょっとしてギャグでやってるのか?と思ってしまう場面だが、セガールの場合は本当にギャグでやっている可能性もあり、衝撃だけ受けておくことにした。ヤツにはギャグセンスがある、とBAMJにも書いてある。

 セガールのすごさはさらに続く。実はアラスカ山中に国1個破壊できるほどのイエローケーキを保有していることが分かり、石油会社からテロリストと呼ばれることになるセガール。やっていることが実際テロリストなので仕方がない。石油会社が雇った傭兵たちはセガールの経歴を聞くと、「北極で身ぐるみはいで海に投げ込んでも、次の日にはメキシコ湾からニッコリ笑いながら出てくるようなヤツなんだぞ!」などと言いながらビビリまくる。そこまで言うか!?って感じのリアクションによって、セガールのすごさはグングン上昇していくのだ。

 そしてクライマックス。石油会社の社長は最後まで抵抗を諦めず、社員が逃げ出す中で基地を守るためセガールに身一つで立ち向かう。この社長が、敵ながらあっぱれな頑張りっぷりだった。どんな外道でも、セガールと戦うからには相応の精神力を持っていないとセガールのすごさが映えないからだろうか。

 そんなわけで、セガール的リアリティに溢れてツッコミの余地もないエンディングに呆然としてしまった。こういうもんなの!?本当に!?大丈夫なの!?といまだに考えてしまう。セガールはこの作品で、己の武士道とは戦うエコロジストであると誇示していると書いてあったけど、こういうことだったのか。スゲェなあ…と思った。

カーくんのお疲れ超大作!『エグゼクティブ・デシジョン』(1996)

 アテネ発ワシントン行きの旅客機がテロリストによってハイジャックされた。機内にガス兵器が持ち込まれている事を憂慮した国防省は、特殊部隊を空中から機に潜入させる作戦を取るが、予期せぬトラブルが隊員たちを窮地に立たせる事になった……。(ツタヤディスカスより引用)

そして、遂にあのセガールと共演したアクション娯楽疲労大傑作『エグゼクティヴ・デシジョン』へと繋がるんですが、公開直前まで「奇跡の共演」と謳われながら、実質共演時間は15分強という結果。(66ページ)

 この作品は④の未知の作品であり、カート・ラッセル主演作だ。最初に言っておくと、この作品は普通に面白かった。爆弾の時限装置を解除するシーンはいかにも90年代っぽいハイテク感がしてレトロブーマーとしても満足感があったし、テロリストに見つからないように機内をはい回るハラハラ感は『エアフォース・ワン』(1997)より面白かったと個人的には思う。

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 そんな『エグゼ~』を語る上で欠かせないのが、DVDのパッケージを見ても分かるようにカート・ラッセルセガールが共演したという割には、セガールの出演シーンが少ないって話だ。実際、『エグゼ~』のセガールはこの年のゴールデンラズベリー賞最低助演男優賞にノミネートされたそうだ*2

 どういうこと!?と思ってしまうが、これ以上この本から引用するとセガールについての作品のネタバレが生じてしまう。なので詳しくは、本編を確認してほしい。

 しかし、私が90年代以前の映画を見る際に参考にしているツタヤの『シネマハンドブック2002 洋画編』(非売品)に掲載されたこの作品のあらすじは、セガールの運命について盛大にネタバレしていた

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『シネマハンドブック2002 洋画編』214ページより。ちゃんとモザイクかけておいた

 そんなにこの映画のセガールは重要ではないのか!?いや重要だよ!私は重要だと思っているので、かたくなに秘密を守るよ!

 謎が謎を呼ぶ『エグゼ~』のセガール。海外ニキ達も"Sensei"ことセガールが珍しくサブキャラで出演したこの映画について、議論と憶測と誹謗中傷を飛び交わせていた。

 『エグゼ~』の背景について知りたくて、ググったら出てきたこの記事*3。記事タイトルとURLの時点でネタバレがあるのでここでざっくり説明すると、このサイトではセガールのこの不思議な役についての憶測を記事にした。その後、1991年に書かれた『エグゼ~』の初期の脚本を読んで確認したら、この段階ですでに実際の映画のような展開になることが決まっていたと分かったので、訂正を入れたようだ。

 記事に書かれていた憶測の内容はなんというか、私がBAMJを読んで考えたような内容だった。セガールは我が強い俳優なので、そういう協調性の無さが制作会社に嫌われたのではないか…という話だ。しかし実際にはそうでもなかったらしいのは、重要だ。

 それにしては、ブルーレイのパッケージが後ろめたい雰囲気になりすぎている気もするのだが…。

 これは、共演してるシーンが少ないから仕方ないねで済む話なのか!?顔だけでなくセガールの名前すら消えてしまったとは。ちなみにこの映画はiTunesでも見られるが、iTunesのサムネイルにはセガールがちゃんと居た。最近作られたサムネイルには居ない、ってことでも無いらしい。

 で、BAMJではカーくんと呼ばれているアイリッシュ男樹カート・ラッセル。私としては、この映画ではただのおじさんの役で出てきてるわね…と思ってしまった。

 『スターゲイト』(1994)や私の大好きな『エスケープ・フロム・L.A.』(1996)では脳筋キャラで出演していたけど、この作品のカーくんは本当に非戦闘員のおじさんの役で出てくる。悪いってわけではないんだけど、『デス・プルーフ』(2007)や『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)なんかを見ていると、アクション映画界隈のレジェンドの一人として、昔はもっとヤバかったし今もヤバい人の役で出てくる。そういう待遇で出演してくれた方が、見てて頼もしいんだけどな…などと考えてしまう。

 この映画のカーくんは、なんだか期待外れだった。ジャンボジェットのスチュワーデス役のハル・ベリーが、小顔目デカで超かわいかったことの方が印象に残っている気もする。それ以上に、セガールについての疑惑の方が面白いのではないか。とにかく、90年代のセガールを語るうえで、非常に重要な作品の一つには違いないだろう。

「最強」セガールに疑惑発覚!?『沈黙の断崖』(1997)

 スティーブン・セガール主演の人気アクション“沈黙シリーズ”完結編。ケンタッキーの険しく雄大な山岳地帯を舞台に、巨大な陰謀に立ち向かう男の姿を描く。美しい渓谷をバックに繰り広げられる過激なアクションの数々。断崖の山道を猛スピードで駆けめぐるカーチェイス、地下の洞窟での銃撃戦や大爆破の炎上シーンなど、ド迫力のアクションが満載。アメリ環境保護庁(EPA)の調査官ジャック・タガードは、殺された同僚調査員の足跡をたどって、アパラチア山系にある小さな町に乗り込む。だがそこで彼を待っていたのは、静かな山々を揺るがすような大きな陰謀だった・・・。(ツタヤディスカスより引用)

 この作品はBAMJで扱われているセガール映画の中では最新作であり、個人的には④未知の作品だった。あらすじを読んでも分かるように、『沈黙の要塞』の舞台をケンタッキー州のど田舎に移し、話の規模をダウンサイジングしたような内容である。

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 比較的こじんまりした話なので、ファン以外の人は見なくてもいいとは思う。ただあなたがセガールがやたらケツの穴の話をする異様な光景を見たいなら、話は別だ。

 ど田舎に現れたセガールは、地元の人たちと比較すると明らかに異質な存在として描かれる。衣装の色がビビッドだし、身長も肩幅もクソデカいので悪目立ちする。なので、炭鉱会社に雇われたチンピラたちに囲まれてやーいオカマ!とかそんな定番の台詞で罵倒されるわけである。しかしセガールはそれに対して、数倍ヤバい台詞で応戦するのであった。

 まず最初のほうのシーン。山の中をうろうろしていると、マリファナ畑っぽい場所に出てきてしまった。そこにいた悪党に銃口を向けられるのだが、セガールはこう言う。「かわいい口してるなぁ!」そして股間を蹴り上げる。

 セガールはチンピラの集団に襲われる。しかしセガールなので、角材を振り回して全員ボコボコにする。その際に言った台詞が「肛門科に行って薬を貰え。今のうちに薬をよく塗り込んでおくことだな」。その後、言った相手に再会すると「肛門科はどうだった?」と追い打ち。

 敵の大ボスをついに追い詰めた。セガールは権利の朗読をするでもなく、こう言う。「お前は懲役30年くらいになるだろう。刑務所にホモの知り合いがいる。ホモの喜びを教えてくれるから、安心してケツの穴を差し出せ」大ボスは恐怖し、セガールに向かって発砲する…。

 だいたいこんな感じである。

 どうしてこうなった。軽い気持ちでからかったら、ガチでケツの穴に攻め込んできそうな凄みがあるではないか。セガールはどうして今回こんなキャラになってしまったのだろうか。BAMJは勝手に推測する。

 その原因を勝手に予測してみると、セガールは『沈黙の断崖』クランクイン直前に三人目の妻と離婚していた。これは単なる離婚でしかないと当初は考えていたが、妻のいなくなった後に撮った作品で、これだけ意味深な発言が繰り返されていると、何か新しく甘美なジャンルを開拓してしまったのでは?と真剣に心配してしまうほど、セガールは何かおかしかった気がする。(19ページ)

 真相は分からない。しかしそういう凄みに溢れた作品は、実際に存在した。とりあえずBAMJが無かったら絶対見ることは無かった映画だよな、と思った。

章タイトルになっていた映画

ガッツ兄ィのボクシング・グルーブ!『カンバック』(1991)

 章タイトルになっていた映画は全部で4本。以下で紹介する3本と、ガッツ石松監督・脚本・主演の『カンバック』(1991)だ。BAMJに掲載された数少ない邦画*4のうち最も大きく取り上げられていた作品だが、残念ながら見る手段が無さそうだった。松竹のデータベースにラストまでのあらすじが掲載されているので、気になる方はご覧いただきたい。

www.shochiku.co.jp

 筆者によると、この作品のガッツ石松は全盛期のジェームズ・ブラウンが醸し出す雰囲気に限りなく近いそうだ。それはとにかく自分に酔っている裸の俺様による、俺様のための俺様エンターテインメント的な内容らしい。

 まず幕開け。ボクシング試合会場で「ボクシング?ゲームです」とフカす人気若手ボクサー(お坊ちゃん育ち)の試合を眺めるバンドご一行の姿が映し出される。地井武男(ボビー・バード)が先鋒をきって「こんなの気の抜けた炭酸みたいですね」だの「オヤっさんのころのは飢えた獣の戦いだったのに」とのベタなイントロダクションで観客をアオルと、いよいよ元チャンピオン・現焼き鳥屋のオヤジ「鈴木丈」ことガッツ兄ィ御大が登場し、出だしをキメる!!!ジャーン!!

「俺ぁバカだからうまくいえね」……

 グッゴー!!(133ページ)

 こんな調子で登場人物をオリジナルJBズのメンバーに例えながら、そのライブが開催されているかのような解説が結末までネタバレ全開で進んでいく。

 その記事の書き方は実際にガッツ兄ィが歌っているのか、作者の妄想なのかが未見の人間には判然としない。しかし筆者がめちゃくちゃに興奮してライブを疑似体験している事実だけは、とりあえず伝わってくる。そしてそこに書いてある展開が実際どういった映像なのか、自分の目で見たくなってしまうのである。ちょっと卑怯だよな、こういう文才。

 あと筆者は酷評していたが、久石譲先生によるスーパーマーケットのBGMみたいなシケた音楽が個人的にはとても興味がある。これがガッツ兄ィのソウルから最もズレているこの映画唯一の欠点らしいので、そういう評価も自分の耳で確かめたいと思った。

90年代最後の荒唐無稽!『ロング・キス・グッドナイト』(1997)

 小学校教師サマンサは夫と娘との生活に満足していたが、八年以上前の記憶がないことに不安を覚えていた。私立探偵を雇って、自分の過去を調べさせていた彼女。ところがある日、殺し屋が襲ってくる。それをきっかけにしてサマンサは私立探偵ヘネシーと共に、自分の過去を探る旅に出た……。レニー・ハーリン監督とジーナ・デイヴィス夫妻がコンビを組んだスーパー・アクション映画。(ツタヤディスカスより引用)

 BAMJでは1章を割いて解説してあるこの『ロンキス』。全く知らないタイトルだったので、この本の影響で最初に見た映画だ。まさに④未知の作品である。あと①。この作品は配信サービスでは見られず、レンタルならツタヤディスカス以外では見れない。ただブルーレイは出てる。

 監督は『ダイ・ハード2』(1990)『クリフハンガー』(1993)等で界隈に名を知られていたレニー・ハーリン。159ページでは80年代ハードロック風のロン毛ブロンドにうすらデカいガタイのテロリストみたいなヤツといわれている90年代アクション映画界隈の重鎮である。アクション映画の監督にして、敵キャラみたいな風貌の人ってことだ。movie-tsutaya.tsite.jp

 1章を割いて解説してはあるのだが、内容はこの『ロンキス』について全体的にハイテンションに喜びつつも、キレのいいツッコミだらけだった。

 アクションシーンは本当にすごいんだけど、ストーリーが大味で特に前半は眠い。なので大コケしたし世間には見向きもされていないんだけど、俺は大好きだ!という感じの内容である。要するに、素直には褒められないんだけど、すごいところはすごいから好き!というオタクの歪んだ愛情がひしひしと伝わる内容だった。

 製作予算は100億ドル。脚本をシェーン・ブラックから買った時の価格は、当時のハリウッド最高額である400万ドル。しかしその予算は1ミクロンも回収できていないはずと書かれている。どういうことなのか気になるじゃないか。それで実際に作品を見てみたら、確かに記事に書いてある通りの感想を抱くことになった。

つまり『ロンキス』とは、これまでのアクション映画、パニック映画、マーシャルアーツ、大量殺戮、勧善懲悪等のキワモノ的設定を全てぶちこんで煮詰める前に食ったらやっぱ生煮えだったような作品なんです(リスペクト!)。それもすごく味付けが濃い。(81ページ)

 ストーリーは確かに大味だった。冷戦が終わってから911までの、つかの間のポスト冷戦時代。冷戦中に活躍したスパイはこれからどうなる?そしてスパイを養っていたCIAは?という着眼点はいかにも90年代らしいのだが、やることが無茶苦茶としか言いようがなかった。

 目的は確かにわかる、でもやり方が現実離れしてんだよ!いや、映画だからこれで良いのか!?などと、フィクションの世界に溶け込めずにツッコミを入れたくなる展開があまりにも多い。そして笑わせたいんだか、真面目なんだか分からない場面も多かった。笑えないかといえば笑えるんだけど、登場人物が真剣な顔をしているので本当に面白がっていい場面なのかいまいちわからないんだよな…!

ここからの展開は「肝っ玉母ちゃん地獄のコマンドー」としか表現できず、前半とは違う作品ではないかと思うほどに目詰まり気味なアクション&バイオレンスが炸裂。あとはもう見てください、直接。(80ページ)

 しかし、クライマックス30分間くらいに凝縮されたアクションや爆発シーンは有無を言わせない見ごたえがあった。目詰まり気味と書かれているが、たしかに見せ場の密度が高すぎる。メリハリという概念が狂っているとしか思えないほどに、すごいアクションシーンが連続するのだ。

 椅子に縛り付けられたサミュエル・L・ジャクソンが、爆発するモーテルの中から飛び出して看板を突き破るシーンは、その爆発に至るシーンまで含めて大笑いしてしまった。いやいやいやその人形の股間からガソリンが出てくるシーン、ふざけているわけじゃないんですよね!?と何度も思ってしまうが、たぶんここは笑っていい場面なんだろう。

 そんなわけでどこまでが真面目なのかギャグなのか判然としないけど、激アツなアクションシーンと爆発が素晴らしい『ロンキス』!この本が無ければ決して出会えることは無かっただろう。ありがとう、BAMJ…。

 この作品の公開後、ジーナ・デイヴィスレニー・ハーリン監督は離婚した。ここまではBAMJに載っている通り。さらにこの本によると、ブルース・ウィリスとスタローンとジーナからは「レニーの映画には二度と出たくない」と言われているらしい。

 しかし『ロンキス』の撮影について「今までの映画人生、いや生きてきて一番辛い体験」と言ったというサミュエル・L・ジャクソンはその後『ディープ・ブルー』(1999)に超おいしい役で出演し、監督と一緒にブルーレイのオーディオコメンタリーにも仲良く出演していた。そしてスタローンも『ドリヴン』(2001)で主演している。この監督の映画に出るのはもうこりごりだと絶対思ってるよ!と視聴者には思わせつつも、男のロマンを実現してくれる人として実際信頼されていたらしいハーリン監督であった。

ファースター・エイリアン・バグズ・キル!キル!『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)

 ブエノスアイレスで高校生活を送っていたジョニー・リコは両親の反対を押し切って軍隊に入る事を決意する。《中略》ついに機動歩兵としてバグズの本星へ突撃したジョニーだったが、彼がそこで見た物は敵の圧倒的戦力の前に簡単に殲滅していく地球軍の姿だった……。(ツタヤディスカスより引用)

オランダといえば、でかい風車と木靴とチューリップというイメージだが、今後は「ヤン・デ・ボンポール・バーホーベンが生まれたバイオレントな国」と認識して頂きたい。(174ページ)

 『スターシップ・トゥルーパーズ』はオランダの鬼才ポール・ヴァーホーヴェンの代表的な作品の一つであり、この本の中では1章を割いて紹介されている。この作品はだいたいどのサービスでも見ることができる。

 有名な作品なので、昔からタイトルくらいは知っていた。しかしソフトの販売元がブエナビスタと書いてあるのを見て、何だディズニーか…と思って甘く見ていたため、私はその存在を完全にスルーしていた。だが今回このBAMJででっかく紹介されていたため、慌てて鑑賞した。これってそんな、オタクが大歓喜するような映画だったの!?と再発見したようなものなので、④未知の作品に含めても良いと思う。そして、②と①でもある。

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 この作品を見て人がたくさん死んでて楽しかった!と感じてしまった人は、きっと『ランボー/怒りの脱出』(1985)や『男たちの挽歌Ⅱ』(1987)も楽しめると思う。何かこう…認めたくない自分の性癖を発見してしまうような作品だった。じっさいタッチストーン・ピクチャーズは出資しただけで、製作したのはランボー怒りのシリーズやエメゴジでお馴染みのトライスターであった。そう聞くと納得感はある。

 まず、こちらの記事をご覧頂きたい。でもネタバレを気にする人は、見ないほうが良い。

cinemore.jp

 好き嫌いが激しく分かれる映画だとか、監督はファシズムを礼賛していると批判されたとか、ブレヒトの影響とか色々と難しいことが書いてある。

 ハァ〜〜〜〜ッ!知るか〜〜〜!!!こいつぁバーホさんが目指した究極の悪趣味スプラッター超大作なんだよ!…という感じで、BAMJはこの作品を紹介してくれる。それはもう、圧倒的な賛辞である。

 そもそもこの作品はハインラインの小説『宇宙の戦士』をもとに作られている。しかし原作本の核になる部分にリスペクトが無く、より人が死にやすいように脚本が改良されているとしか思えない。ついでに監督は撮影半ばまで原作小説を読んでいなかったことに触れ、『トータル・リコール』(1990)の時もフィリップ・K・ディックの原作本を読んでなかったらしいし、最高すぎます!と評価する。BAMJのこういう評価基準、好きです。

 たしかに、有名なあの表紙のパワードスーツが出てこない。全く出てこない。原作本を読んでないから、こだわらないってことか…!?とその事実にも妙に納得がいく。予算の都合の可能性もあるが、やっぱ人間がスラッシュされるシーンをたくさん入れたかったからなんじゃないの、というBAMJが立てた仮説には信憑性を感じる。

実は『スターシップ』はハリウッドが産み落とした「ハードコア・ワークス」またはタイの死体雑誌であったとハッキリ断言しよう! しかも全ての特撮、原作のストーリーはまさに死体を積み上げるために必要な「言い訳」でしかなかった(173ページ)

 そこまで言い切るの!?ていうかタイの死体雑誌って何!?などと思ってしまうが、BAMJは断言する。たしかにあの執拗な死亡シーンへのこだわり、そして四肢が千切れた死体がゴロゴロ転がる場面の多さ。これはよっぽど死体が転がってる場面が好きでもなきゃ、わざわざ入れたりしないでしょ!とは思えた。

 上記のシネモアの記事によると、この作品は軍国主義国家の戦意高揚映画のパロディであり、それは第二次世界大戦中にディズニー(≒タッチストーン・ピクチャーズ)がやってきたことにも通じるのだという。劇中のプロパガンダ映像のノリを見ていれば、この説にも大いに納得だ。しかし結局は、そのファシズムを批判する真面目さと、人が死ぬのって楽しい!というエンタメ性の両方を2:8くらいの割合で併せ持つスーパー悪趣味大戦こそがこの映画の本質なんだろうと思った。『女王陛下の戦士』(1979)や『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』(1985)なんかの過去作を見て、バーホさん好みの顔面もだんだんわかってきた時なら何となくそう思える。この御仁は不真面目な表現にこだわるのと同じくらい、真面目に狂った自分の信じる世界観を表現したくて映画を作っておられるように感じるからだ。

 しかし何だかんだ言っても、『スターシップ』はとにかく意識高いエンタメ作だ。私はこの映画の殺戮シーンそのものよりも、その他色々の悪趣味シーンの総量に感銘を受けたんだ!バーホさん最高!!90年代のバーホさんは悪趣味とバイオレンスがインフレーションしててほんと素晴らしい!癖になっちゃう!

 ただ、『スターシップ』は3人の若者のキラキラした友情がメインの映画という気がしてて、バーホさんの映画の中で一番好きかと言われればそうでもない。人間のクズを描かせたら右に出る者はいないと私が確信している監督*5の持ち味が、あまり感じられないような気がしていて残念に思えてしまう。『スターシップ』は全体的に世界観が狂っているせいで、人間のクズと呼べるほどの悪人が出てこないからな〜。

 そんな個人の感想はさておき、当のバーホさんがその後どうなったかについて書いておこう。バーホーベンはこの後も伸びると思うんですよ、とBAMJ巻末の対談には書いてあった。しかし実際には『インビジブル』(2000)を作ったことを後悔し、バーホさんはオランダに帰ってしまわれた。まあこの『スターシップ』の突き抜けた死亡者数と比べたら、それ以上の作品を作るのは難しいと思えるので妙に納得してしまう。

偏差値30のボクでもわかる面白さ!『ダブルチーム』(1997)

 香港映画界の巨匠ツイ・ハークが監督したヴァン・ダムの最高傑作。元CIAのクインのもとに、凶悪なテロリスト、スタブロフの暗殺指令が下る。作戦は失敗、スタブロフの幼い息子が流れ弾で死ぬ。しくじったクインも引退したスパイを集めた謎の島に軟禁される。が、スタブロフが妊娠中の妻を誘拐したことを知ったクインは島から脱走、武器商人ヤズの協力を得てスタブロフを追跡する。中盤に出てくるスパイ島は、「プリズナーNo.6」のパロディ。(ツタヤディスカスより引用)

 この作品はツイ・ハークの記事の中で大きく取り上げられていて、香港映画のノウハウとハリウッドの資本が合体した「奇跡の大傑作」であるとキャッチコピーが添えられている。この作品はYouTube(もちろん合法な有料レンタル)とかで見ることができる。

 BAMJでは、ジャン=クロード・ヴァン・ダムの魅力の一つは自分のアクションを美しく撮ることへのこだわり、つまりナルシシズムにあると説明される。それがブルース・リーへの憧れからドラゴンへの道を歩んでいたはずが、ナルシスへの道を進んでいたんだという話になっていく。そして『ドラゴンへの道』(1973)オマージュなのかもしれないクライマックスの戦いへと、超スピードで展開する『ダブルチーム』は絶対見逃せない作品なんだよ!ってことだ。

 ところで今これを書きながら、大変なことに気が付いてしまった。この記事、目次に掲載されていない。ちょっとどうしたのよ。なかなか気が付けない系のエラッタ案件じゃないの!ヴァンダムの記事が別にあるからと思って忘れられてしまったのか!?まあとにかく未知の作品だったので、これは④だ。そして③だな。

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 面白いか面白くないかでいうと、正直そこまで面白いわけではない。ただハリウッド映画と比較するとすごく個性的なので、その異様さが心に残るだろう。ヴァンダム主演でジョン・ウーがハリウッドデビューした『ハード・ターゲット』(1993)が普通のハリウッドアクション映画だったような錯覚を覚えるレベルで、『ダブルチーム』はツイ・ハーク流のやりすぎな演出が冴えまくっている。

 湿っぽい要素の湿っぽさが展開のスピードによって薄まってしまいそうなので、木製のおもちゃを画面に映すことで保湿効果をアップ。その上で限界までアクションシーンを入れて、ガラスを割りまくる。爆発しそうなものは全部爆破し、なんかミッキー・ロークのパワーを暗示するかのごときトラが出てきて画面を華やかに演出。ストーリーや設定の突飛さもハンパない気がしたのだが、そうはならんやろ!!とツッコミを入れる間もないスピードであっという間に通過していき、気が付いたらヴァンダムの筋肉が映っている。そんな感じである。無理が通れば道理が引っ込むということわざがぴったりだと思う。

 このクセつよつよ演出だが、過去作『ブレード 刀』(1995)や『金玉満堂〜決戦!炎の料理人』(1995)などを見て確認したところ、だいたいこの監督がやりたそうな路線は全部やれているように思えた。ヴァンダムのナルシス道に付き合いつつ、自分のテイスト全開でやることに成功しているので、奇跡の融合ってわけだ。

 BAMJによると、『マキシマム・リスク』(1996)のリンゴ・ラムヴァンダムの食い物にされたとのこと。『ユニバーサル・ソルジャー』(1992)でハリウッドデビューしたローランド・エメリッヒも多分そうなんだけど、とにかく俺を映しとけ!というヴァンダムの押しの強さに負けて自分の味を出し切れなかった監督たちの敗北っていうか何ていうかを見てきたツイ・ハークは、自分はそうはならんぞと気合を入れておられたのではないか。そんなことは思った。

やっぱりこれはツイ自身が熱望したというより、プロデューサーとヴァンダムが駒の一つとしてツイを香港から呼び出し、監督させた、いわゆる雇われ仕事なんだろう、なんて漏れ聞こえる情報を聴きながら思っていたが、しかし、そこは百戦錬磨のツイ・ハーク、撮影に長年組んできたピーター・ポウ、武術指導にサモ・ハン・キンポーと熊欣欣(殺し屋役で出演も)を連れてきて、重要なセクションは身内で固め、作品に対する気合を見せる。(192ページ)

 いちおう原文のまま引用したけど、1文が長すぎる!この武術指導のシャン・シンシンという方はホテルのシーンに出てくる裸足のカンフー使いで、ハーク監督作品の常連である。『ブレード 刀』では主人公の親の仇の役で出てきていたが、とにかく顔芸がすごい。声もでかい。この人の武術指導はとても厳しいので、さすがのヴァンダムも何も言えなかったのではないか、とも書かれていた。なるほどな。

 そんなわけで、見ている間に何も響いてこなくても、何かが異常だったという記憶だけは確実に残ると思う。そういう体験ができるってだけでも、私はこの作品を見て良かったと思えた。私は『男たちの挽歌Ⅱ』*6を見たとき、この世で一番押しが強い荒唐無稽を見たような気になっていた。しかし『ダブルチーム』を見たら、もっと上を行く方法があったことを知った。これが、香港映画とハリウッドアクションの融合…!という単純なことばでは説明しきれないカルチャーショックを感じる。とにかく衝撃なのである。ガラス割れすぎでは!?とかヤボなことを言っている場合ではない。

 そんなわけで、なんでトラが出てきて追いかけられたりするん!?という驚きのあまり、偶然にも寅年だった2022年の年賀状にしようとして、こんな絵を描いてしまった。12月中旬には正気に戻ったため、実際には送らなかったが…。

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つい描き始めてしまって後悔したファンアート

 あと、レトロブーマーとしては共演者のデニス・ロッドマンがとにかくおしゃれで、ロケーションが移動するごとに髪色が変わるサービス満点っぷりも良いと思った。もうとにかく理屈じゃない、見た目がカッコよかったらそれでいい!というケレン味を、ヴァンダムと二人で体現してくれている。『ダブルチーム』はそんな作品だった。

あの映画で一番すごいのは、バンダムでもロッドマンでもミッキー・ロークでもなくコカ・コーラの自販機だったね(笑)スポンサー最強!(211ページ)

 ついでにいうと、コカ・コーラの自販機が最強説もぜひご自分の目で確認してほしい…!百聞は一見にしかずというし、良くも悪くもBAMJ掲載作で一番のおすすめはこれだと思っているので、本当に見てください。

 この作品は興行的に苦戦してツイは干されたのか、スネたのか香港に帰って何か始めてたようだと書いてあるが、何のこたぁねえ。翌年ツイ・ハーク監督はヴァンダムを香港に呼んで作った『ノック・オフ』(1998)を公開した。この仕事の速さ、さすが香港って感じがする。

感想戦

 そんなこんなで、BAMJのおかげで私はぶっ飛んだ映画を何本も何本も見て、充実した時間を過ごすことができた。そこで漠然と考えたことをつらつら書いていきたいと思う。

90年代末時点の未来予測はどの程度当たっているか?

 お楽しみの②の答え合わせの時間である。個人的に面白かったのは、『トロン』(1982)に始まる映画のCGについての座談会だ。内容的にはやはりCGはズルいけどスゴいというような話題が中心で、半分笑いながらの雑談である。

 『トロン』ファンとしては、当時のガッカリ感を伝える文章を読んで複雑な気持ちになった。何だよこの205ページの夜の歌舞伎町みたいな映画だったね(笑)って!こんな作品でも熱烈なファンがいて、2010年とそれ以降に続編が公開されるなんて、BAMJを書いた人たちは思ってもいなかっただろう。それはまあいい。仕方ない。

daitokaiokayama.hatenablog.com

 当時のこんな空気感は、『トロン』のブルーレイの特典映像からも伝わってくる。『トロン』はアカデミー賞視覚効果賞にノミネートもされなかった。特撮とは実際に模型なんかを作って工夫して撮るべきものであり、CGはズルであるという価値観があったので、評価して貰えなかったのだと監督たちが語っていた。

 それはまあ、分からんでもない。私も『トラ・トラ・トラ!』(1970)の爆発シーンを見ることによって、セットが木端微塵になった瞬間にだけ摂取できる栄養素をチャージして、嬉しい気持ちになれたりする。でもCGにはそういうありがたみが無いじゃん!実際壊れてないんだから!って言いたい気持ちは分かる。『トロン』の場合はそのCGにも、アホほどアナログの手間がかかっているので、その辺も評価してあげてほしいのだが…。

 ディズニー初のフルCGアニメ『トイ・ストーリー』(1995)とか、CGのクリーチャーが人間を蹂躙する『スターシップ・トゥルーパーズ』、公開当時にはなかったCG技術を導入して少しリニューアルした『スター・ウォーズ 特別篇』(1998)、そして新作の『スター・ウォーズ エピソードⅠ/ファントム・メナス』(1999)の辺りで、CGの評価が全盛の時代が来ていたと思う。しかし『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』(2014)の頃になると、この爆発シーン本物らしいよ。CGじゃないってすごい!やっぱ実写が素晴らしい!みたいな価値観がいつの間にか戻ってきていたと私は思った。CGがすごいのは当たり前。それ以上の価値を生み出せるのはやはり実写の特撮あってこそ!みたいな、CGアーティストがいつまで経っても報われないような価値観が、アクション映画界隈にはあるっちゃある気がする。BAMJはすでにそこに気がついていた。

昔はCGのシーンっつったら、それが売りだったじゃないですか。これにはCGシーンが何カットあるとか、どこどこがCGだとか。そういうのが今やなくなって、CGの有難味がなくなりましたね。(214ページ)

 で、今はどんな3流でもCGを使うだけなら使えるので、これからは『エスケープ・フロム・L.A.』の波乗りのシーンのようなCGじゃなきゃできないだろうし、CGで表現したところで大したことはないような場当たり的な使い方だけが、目の肥えたマニアを喜ばせるCGになるだろうと書いてBAMJはこの座談会を締めた。

 まあ、うん、確かに。この作品は全体的にこんなノリだったと思うが、この場面は特に大真面目に馬鹿やってる感が出ていて、良いと思う。CGの未来がこうなってきたかは私には判断がつかないが、CGがズルだっていうんなら、いかにもブッ飛んだ使い方をして呆れさせてやるぜ!って感じの方向性だろうか。サメ映画とかは、こんな感じに進化してきた気はする。

 よく分からないけど、『ラ・ラ・ランド』(2016)のプラネタリウムで二人が宇宙に舞い上がって踊るみたいな、いかにも現実ではあり得ないけど雰囲気的には全然アリな使い方だったらCGの有難みがあって良いんじゃない?とかそんな意味なら、当たっているのかもしれないと思った。

 CG技術は目覚ましく進化している。しかし、有難みだけが失われて久しい。その有難みに気がつくことができれば、映画鑑賞は映画観戦という別の次元に飛躍する…のかもしれない。

BAMJのアクション映画観戦とは何だったのか

 では、この本のサブタイトルにもなっていた映画観戦とは何だったのか。

 BAMJを書いた人たちは、まえがきで「作品そのものよりも、俳優の個性や作家性を鑑賞する」ことの重要性を説いた。そして、デカ・バジェ・ムービーがやって来るんだから、その作品が持つ観客に対するサービス精神を全力で受け止めるべきであると力説する。

映画のストーリーを楽しむのではなく、「俳優の個性を理解する」、作品のテーマではなく「投入されたウン億万ドルの予算がどの辺りで浪費されたかを探る」、そして監督の過去の作品を踏まえて「パターンを楽しむ」ことです。この理念に従えば、巷のビデオレンタル屋で発売日にだけ大量入荷され、三ヵ月も経つと忘れてしまうような映画でも、何度でも鑑賞に耐え得ることができるでしょう、たぶん。(10ページ)

 これはパッと見ではつまらないかもしれない『ロング・キス・グッドナイト』のような作品を楽しむためには、必須のセンスだと思った。確かに、BAMJでハーリン監督の経歴やなんかを知ったうえで作品を見たときは、その過剰なサービス精神に感銘を受けることができた。こうすれば観客が喜ぶから!と監督が信じてやまない過酷な道を歩かされる俳優とスタントマンの頑張り*7に少しでも興味を持てば、アクション映画の面白さは別の側面から現れてくることがよく分かったからだ。

 予算についての考えかたも、今とはちょっと違うかもしれない。そういえば90年代までは、私財をなげうち会社を倒産させるといった壮絶なエピソードを持って出てくる映画が色々あった。今もあるのかもしれないが、そういった熱意だけは受け止めてやらにゃ!という気持ちを持つことも映画オタクには必要だったのかもしれない。今ではクラウドファンディングでC〜D級映画制作に観客が直接出資できたりするし、作り手との距離感は90年代と今では確実に違っているのだと思う。多分。

 あとハリウッドの外から来た監督たちとヴァンダムの、自分の味を作品に押し出したい気持ちなんかも、実に「観戦」し甲斐があるテーマだと思った。監督と俳優、どっちの力が強い現場なのか?そういうパワーバランスの緊張感が感じられる作品を見ていると、確かに流れ弾が当たらない安全圏から観戦している気持ちになれた。

 もちろん、見たまんまのエンタメ性を楽しめ!!アクション超大作とは、全ての階級が手放しに楽しむことができるA級ムービーなのだから!という話もしてはいる。しかし結局、作り手の人間らしさを理解することで、映画鑑賞はもっと楽しくなるという当たり前のことを再確認させてくれたんだと思った。

だから映画を「鑑賞」に行くっていうよりも、アクション映画は「観戦」(笑)だよ。弾に当たらないところで見ているって感じ。(90ページ)

 だが悪いとこもある。デカ・バジェ・ムービーを礼賛するついでにミニシアター系の作品を貶すような書き方は、余計だよなぁ~と思った。スケールがやたらでかい出来事を扱ったようなアクション映画こそが真に映画的な映画であり、『パリでかくれんぼ』(1995)みたいなどうでもいいような小さなことが映画になっちゃいけないんですよ(90ページ)ってのは、さすがに断言しすぎじゃろとは思う。この『パリでかくれんぼ』って作品、ツタヤディスカスにも無いんで見れなかったんすよ!タイトルだけ出さないでくださいよ、中身が気になっちゃうから!!

 まあ自分に箔をつけるために映画館に行くなどというような、ファッション感覚な野郎がムカつくってのは分かる。オタクは遊びで映画館に行くわけじゃないんだよ!という気迫は伝わってきたが、具体的なタイトルを出す前にちょっと落ち着いてほしかった。*8

さいごに

 私がこの記事で紹介した作品などに共通しているのは、俳優や監督の強烈なエゴによって作品世界の因果律やら何やらが捻じ曲げられており、静かな狂気をはらんでいるという点だ。シリアルキラームービーにありがちな、ほらほらこいつ頭おかしいでしょっ!って感じの演出とは違う。登場人物の頭おかしさを表現しているのではなく、造り手の頭おかしさが作品ににじみ出ていたと思う。

 これらの作品を鑑賞していけば、うっかりすると気が付かないうちに普通じゃないことが起こっているようなナチュラルな狂気を浴びて、狐につままれたような気持ちになれることは確かだ。それはつまり、アクション映画という濁流に身を任せ、野蛮な世界に自分を昇華させるとか、巨大な架空現実に浸るという、前書きに書かれていた正しい鑑賞方法に付いて行けてないってことなのかな…と思った。

*1:セガールTRPG
Webサイト上で無料公開されているTRPG作品。クライマックスまでに最もセガールらしい行動をしたキャラクターが実はセガールだったことが判明し、無双するのが特徴的なシステム。

*2:エグゼクティブ・デシジョン - Wikipedia
この年の最低助演男優賞は『D.N.A./ドクター・モローの島』のマーロン・ブランドが受賞した。あれに出てこられると、さすがのセガールでも勝ち目はないと思えるビジュアルなので、仕方がないな。

*3:エグゼクティブ・デシジョン』についての記事。タイトルの時点でもうネタバレしてるので、注意が必要である。コメント欄が大荒れなので、読むとちょっと楽しいかもしれない。

UPDATED: About Seagal's Early Death In Executive Decision… | ManlyMovie

*4:武田鉄矢の『刑事物語』シリーズはマーシャルアーツ映画だ!という話などが少し出ていた。

*5:映画秘宝の『冷酷!悪漢映画100』の『ロボコップ』の項では、下衆な人間を描かせたら世界一の監督といわれている。

*6:言うまでもなく、ツイ・ハークがプロデュースしたジョン・ウー監督の作品である。

*7:クリフハンガー』のエンドロールには、前半の飛行機アクションシーンで決死の大スタントをキメたのはこの男だ!と分かるような見出しつきで、スタントマンの名前がバーンと表示される。監督なりの、スタントマンへの敬意のあらわれなんだと思う。

*8:あと、インドのデカ・バジェ・ムービーを映画館で見ようとしたらミニシアターに行くしかない場合もあるので、ミニシアターばっかり行くようなヤツを一概に貶すこともできなくなっているよな、と思った。

BLセッションをするときは、必ずプレイヤーの地雷についてリサーチするんやで。せんかったら死ぬで。(ブログ主からのメッセージ)