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『ATARI GAME OVER』覚え書き

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何か挿絵を描かなきゃと思って描いた絵。デロリアンはトレス

 『トロン』(1982)を見て感銘を受けた私は、当時の世相を知るために勉強を始めた。何を言っているか分からないと思うが、私はド文系出身なので、とりあえず作品を深く理解するために関連作品を調べたくなってしまうためだ。ということで、このドキュメンタリー映画ATARI GAME OVER』(2014)を見た。

 トロンに対するクソデカい感情はそのうち記事になるはずなので、今回はこのドキュメンタリーの話をする。いや、このドキュメンタリーも、けっこうしみじみする内容だったんよ。なんかこんな長文を書いてしまうくらいには。

ATARI GAME OVER(字幕版)

ATARI GAME OVER(字幕版)

ブレードランナーの呪い

 ATARIという会社のことは前から気になっていた。『ブレードランナー2049』(2017)の2049年のロサンゼルスには、ATARIの巨大な広告が登場する。この広告がものすごく「映える」ためか、同作のサウンドトラックのアルバムアートにも描かれている。

 しかし、ATARIがなんの会社なのか、私はよく知らなかった。

 どうやら、ATARI1984年に倒産しているらしい。つまり、『ブレードランナー』(1982)で描かれた2019年のロサンゼルスにATARIの広告が出てくるシーンは、あり得たかもしれないもう一つの未来を、これでもかというくらい象徴しているようなのである。すげえ。これがSFだぞ!という魅力しかない話だ。この映画に広告が出てきたPAN AMも倒産したせいで、ブレードランナーには呪いのパワーがあるとか言われている*1が、一番視聴者の印象に残っているはずの「強力わかもと*2が生き残っているんだからただの偶然だと思う。

 ここから先はネタバレになります。

過去とどう向き合うか

 で、このドキュメンタリー。1982年に発売された伝説のクソゲーE.T.は、大量の在庫品がニューメキシコ州アラモゴードの埋立地に捨てられたという都市伝説になっている。その真相を確かめるべく、現地に行って掘り起こすことで、ATARIとは何だったのか、ATARI崩壊の原因は何だったのかを探る…というストーリーである。

 砂漠のゴミ捨て場を重機で掘り返している風景に、「夏草や兵どもが夢の跡」みたいな虚無を感じる。淡々としたナレーションが、そんな空気をかもし出す。

 サムネイル画像を見ても分かるが、実際にこのゲームは掘り出されており、当時はニュースにもなった。私もこのニュースを、何かのサイトで見た記憶がある。

 ATARIファンの老若男女が発掘現場に集まり、地元テレビの取材も来ている。クソゲー(terrible games)好きと公言するマセガキもいる。そしてなんと、『レディ・プレイヤー1』(2018)の原作者アーネスト・クラインデロリアンに乗って現地に駆けつける。そういうレベルの大事件である。

 このようにファン達は喜んでいるが、演出は感動を煽るわけでもなく、淡々とした空虚さが漂う。倒産した会社が地下に埋めた在庫を掘り返しているわけなので、そんなに嬉しいことじゃない。過去とどう向き合うか、そういう話である。

 発掘の手法がなんというか、伝説的である。ATARIがゲームソフトを埋めた当時の新聞の写真を検証し、写っている建物の形から撮影地点を割り出し、穴があった辺りを掘る。その手法は、まるでインディ・ジョーンズが、ラーの杖飾りを使って聖櫃のありかを探り出した時のようだと紹介される。

 ATARI 2600用のゲームソフトE.T.は、『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(1981)のゲーム版がヒットしたことをきっかけに、同じ作者のハワード・ウォーショウによって作られた。ATARIの最高傑作と呼ばれるヤーズ・リベンジをはじめヒット作を色々作っていたので、そこにこの話が来たという感じだそうである。

 ラーの杖飾りは関係ないっちゃ関係ないけど、ものすごく運命的な一致に感じてしまう。演出の妙だな。

史上最悪のクソゲー

 E.T.はなぜ、史上最悪のクソゲーと呼ばれているのか。

 まずは、このゲームの制作日数がめちゃくちゃ短かった、という事情が説明される。82年のクリスマス商戦に間に合わせるため、5週間でゲームを完成させる必要があった。通常なら、1本につき5〜6ヶ月かけて開発されるのが常なのに、である。

 しかし作者ハワードはこの無茶な話を聞いて、やってやろうじゃん!と思って逆にやる気を出してしまった。当時の自分は「傲慢だったと言える」と、インタビューで語っていた。まあ、気持ちはわからんでもない。

 そして、完成した作品自体の難易度が高かったとのこと。実際に『E.T.』(1982)劇中で遊ばれていたゲームはD&D風のTRPGだった*3んだから、そっち方向から何かアプローチできんかったんかねぇ。知らんけど。などと、外野としては考えてしまう。どっちにしろ締め切りが早すぎるので、別のクソゲーが生まれてしまう気もするが。

 ソフトは爆売れどころか、返品が相次いだ。発売後に出社したある朝、ハワードは他の社員から口々に「私はあなたの味方だから…」的なことを言われ、励まされた。最初は何のことだか分からなかったが、あのゲームの評判が酷いことを知り、彼は自分の子供が虐待されているのを見たかのように、ショックを受けたという。わかる。

 この翌年から業績が目に見えて落ちはじめ、ATARIは倒産した。

 こうして、E.T.はただクソゲー認定されるだけでなく、ATARIの業績不振の、いや業界全体の衰退の責任まで負わされることになった。ただのクソゲーというより、疫病神でもあるから史上最悪という感じである。

 この映画の結論から言うと、E.T.ATARI衰退の原因ではない。発掘の結果、E.T.の他にも、過去のヒット作も色々と埋まっていたことが分かった。E.T.は、埋められていたソフト全体のうち1割程度だったという。ATARIはとりあえず在庫品を処分する必要があって、埋めたという感じらしい。

 飽和状態にあった市場に、さらにATARI 2600を売り込もうとして失敗したという話もあった。その辺の身の振り方を間違えた結果、立ち直れなくなった末の倒産なんだろう。

語られなかったこと

 ていうか、業界の衰退って何だよ?と思ったのだが、要するに米国国内のゲーム産業が衰退して、海外の企業にシェアを奪われてしまった的な話…だと思う。いや、知らん。知らんけど、何となくそうじゃないかと思った。業界の衰退という言葉は何度か出てくるが、その内容については語られない。

 このドキュメンタリーでは、NES(北米版ファミコン)の発売のことには触れていない。日本でファミコンが発売されたのは83年だが、北米では85年のことだ。

 ATARIの倒産は他殺ではなく自殺だと説明される。NESの発売は、倒産には直接関係ないためかもしれない。ただこのドキュメンタリーのスタッフロールの最後に、XBOXなんちゃらというロゴが出てくることとは、関係があるかもしれない。競合他社が作っている番組だから、NESの話はしない的な。

 業界が衰退したことについては皆もよく知っていると思うから、察してよと言いたかったのかもしれない。

愛とリスペクト

 この作品は終始淡々としたトーンで進むが、確かなATARI愛に溢れていた。

 あの頃、これよりもっと酷いクソゲーあったよね!?具体的にはアレとか!

 E.T.のあの悪評のせいで、作者の功績が正当に評価されていない!酷くない?

 むしろ、5週間であれだけ作れること自体はすごくない!?

 最初に海に飛び込むペンギンはアザラシに食われやすいけど、その一匹のおかげで後続が飛び込める。挑戦する人はリスペクトされるべきなんだよ!

 そんな感じで、みんなでE.T.を擁護する。3年かけて計画を立て、埋立地を掘り返した人たちだ。俺が信じるナンバーワンクソゲーは、E.T.じゃなくてアレだ!という話もするが、本来の目的はE.T.とハワードの名誉を回復することなのだ。愛がなければ、こんなことはできない。

 私も飲み会で雑にエメゴジ*4が叩かれていた時、その場の空気を無視して「なんでそんな酷いことを言うんですか!?」とか言ってしまったことがあるので、気持ちは分かる。ちなみにその時は先輩が助け舟を出してくれて、「そう。エメゴジよりひどいゴジラ作品はある。『ゴジラの息子』というひどいのがな」という話に落ち着いた。異論は出なかった。(ミニラファンの皆様、ごめんなさい)

 この界隈では作品に難癖をつけるのが流行になっている…とも言っていたが、ゲーム界に限らないと思う。

 何かを叩いて笑いものにしたところで、その発言が発言者の価値を高めることはないし、むしろ要らん争いの種になる可能性があるのでやめたほうが良いと思う。

 なんというか、スナック感覚で何かを叩くのは良くないという、当たり前のことを学んだ気がする。いやエメゴジが酷いことは認めるけど、エメゴジファンとしては軽い気持ちで叩いてほしくないの!…みたいな。 

*1:「ブレードランナー」の呪い? 続編の企業の運命は - WSJ

 有料記事なので読めていないが、何となくソニーの業績の話になっているんじゃないかと思う。

*2:

pin.it

Pinterestで見つけたGIFアニメ。あの芸者風の女は強力わかもとの広告だったのだ!分かりやすい!

*3:エリオット少年のTRPG – 新・批評家育成サイト

 『E.T.』とTRPGの話。エリオット少年の意趣返しについて考察している。

*4:ローランド・エメリッヒの『GODZILLA』(1998)

BLセッションをするときは、必ずプレイヤーの地雷についてリサーチするんやで。せんかったら死ぬで。(ブログ主からのメッセージ)